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精霊
水希は精霊だ。人ならざるものでありながら、その思考回路は人間としか言いようがない。
「あのなぁ、斗和だって高校生なんだからそれくらいできるよ」
「それくらいって何よ。相手は岬よ?敵。めっちゃ敵なの」
「だったら行かせなきゃ良かっただろ」
「みんな行かせろって言ったじゃない」
「そりゃあ、斗和が梨持っていきたいって言うんだから仕方ないだろ」
「でも敵地!完全に敵地なの!」
そもそもなぜ敵地に梨を持っていきたいなどと言い出したのかという話だ。水希は敵だ敵だと騒いでいるが、斗和にとってはそれほどの因縁はない。いや、ないと言うこともないのだが、亡くなった友人に瓜二つなのだから少しくらい気を許したいと思うのは分からない話ではない。
「水希の家で取れた梨だろ。いいじゃないか。相手にダメージを与える呪いでもかけておけば良かったんだよ」
「うちの梨にそんなことできるわけないでしょ。それに相手は土の巫女なんだから、果物に変な呪いがかかってたら気付くわ」
「それもそうか」
稲美岬はあれで色々なものを抱えている。敵ながら、初対面に腕を切り落とされて失血死寸前になり(治した)、次に会った時は上司らしき人物に頭が上がらなかった。敵というのはいつも統制の取れた縦社会。そうでなければ集団で誰かを襲うなどできないからだ。
「梨を食べたら帰るって言ってただろ。ほら、鈴姫も調姫もそこで心配するようなことはないって。一応二人には千里眼で見させてるから、異常があれば知らせも入るし」
「そもそも何よ、梨食べて帰るって。仲良くしてんじゃないわよ」
「話が堂々巡りしてる」
残り1分だ。喚いても仕方がないだろう。
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