巫女と梨

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巫女と梨

 人の家を訪ねるのは何分前に着くと良かったか。5分前に門の前に着いた斗和はインターホンを押すかどうか迷っていた。早すぎるのか、遅すぎるのか。 「あれ、なんだ、居たなら押せよ」 「あ、ああ」  斗和は岬を見るとどうしても、少しドキドキしてしまう。 「広いんだな」 「そりゃあ、代々巫女の家だからな。まあ男なのに巫女とかよく分からないけど、女と付く割にはジェンダーレスな仕事だよ」 「結構大変じゃないか?」 「そりゃあ、お前ら全然言うこと聞かないから俺は怒られてばっかりだよ。梨、持ってきたんだろ。剥くよ」 「ああ」  斗和は完全に岬のペースに乗せられている。 「適当に座って」  斗和はダイニングテーブルに座った。 「音緒が人で居ても俺は困らないんだよなぁ、実際のところ」 「そうなのか?」 「そりゃあそうさ。音緒って別に人に悪さするわけじゃないし、稲美岬個人としては、別に居ても居なくても一緒っていうか、隠居してる仙人みたいなもんだよ」 「じゃあなんであんなに攻撃するんだよ」 「それが組織ってもんだよ。いや、宗教なのかな。でも同じことだよ。俺が当代の土の巫女だから、俺がやらなきゃ稲美はこの家だけじゃなく分家も含めてみんな死ぬ。家族を人質に取られて赤紙が来ちゃった感じ」 「そんな」 「斗和は特異体質だから家族のことは関係ないよ。自分の責任で自分の道を選ぶといい」 「もっと仲間になれっていうのかと思った」 「骨壺盗んでもまだダメなら俺にそれ以上の手はないよ。斗和の未来、不確定すぎてよく分からないし」  斗和は命を削って他人に与えることができる。だがそれ故に命の木が変わる。未来をいくら見ても、確定したものが得られない。  岬は向いた梨をテーブルに置いて椅子に座った。手際がいい。 「あーあ、早く戦いが終わってこうやってのんびり過ごしたいよな」 「終われないだろ。800年続いてるんだろ」 「そう。だからもう、みんな戦い続けることに誇り持っちゃってるんだよ。俺やだなぁ」 「和解とかないの?」 「さあ。誰と誰が和解するのか、何を和解するのかももう良くわからないよ。あー梨うまー」 「水希の家は桃農家なんだ。梨も作ってる。他の果物も色々あるよ」 「何あいつ、最高じゃん。てかあいつ、あの精霊のおかげで俺の攻撃が全然当たらないんだけど」 「桃の精霊らしいよ」 「あーだから攻撃当たらないのか」 「だから?」 「桃って守りの力が強いんだよ。そもそもなんで斎木は精霊持ってんの?」 「桃農家だから?」  ううん、と岬は唸った。 「まあいいか、そういうことで」 「いいんだ」 「だってな、そもそも巫女ってのは人間だから、精霊には敵わないんだよ。もちろん神にも。音緒に通じるのは結局のところ、説得とはったりなんだよ。俺がいくら身を切ってもあいつは治すだけだしな。根の王ってのは治せるが故に痛みに対して鈍感だ」 「ああ、それは俺も、会って2日目でピアス引きちぎられた」 「うわっ。引くわ。仲間に対してもそれとか」 「お前のつけたエメラルドな。あ、やばい約束の時間だ。ここからは時間計られてるからな。梨食ったら帰れって水希がうるさいからゆっくり食べよう」 「あいつ本当小姑みたいだな」
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