7 走れ!

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7 走れ!

高く広がる青空、真っ白に浮かぶ大きな白い雲の下、ダウンタウンを闊歩しながら目的地へ急いだ。 街歩く人々は、それぞれの目的地に向かってそこにたどり着くことのみ考えているようだ。 ただ、色とりどりの鳥だけがこの青空と空を楽しんでいる。 「しかしあっちーな・・・」 時折ビル風が吹くとは言え、その風も生暖かくちゃ、さっさと用事を済ませて車に乗り込みクーラーをがんがんかけて立ち去りたい。 遠慮なく降り注ぐ真夏の太陽の日差しを受け、地面全体がまるで文句を言っているかのようにゆらめいている。 「こんなに歩くなら他の靴履いてくるんだった」 おろしたての革靴でなだらかな坂を上ったり下ったりするのはきつかった。 更には、今日は一張羅のおろしたてのスーツを着てきた。 一世一代のチャンスをものにするために! 今日の依頼人は、近所の住人からありものないことで因縁をつけられ、なんだかんだと依頼人のせいだと騒ぎ立て精神的に被害を被ったと損害賠償を相手の弁護士を通して送りつけてきた。 ま、相手の弁護士はともかく相手側のおばちゃんには俺が優しく語りかけながら上着を椅子にかけ腕まくりをした途端に目の色がかわった。 なんだ、腕フェチか・・・。 さも熱心に相手の話を聞くふりをしながらメモをとり相手に同情するようなそぶりを見せながらバッサリ切り落としたおかげで告訴を取り下げるということでケリがついた。 あの暑いビルの谷間をまた歩いて車まで戻るのか・・・。 スーツの上着を腕にかけたまま、また街に繰り出す。 先ほどとは違ってビルの陰で少しだけ暑さは和らいだ。 歩を進め今出てきたビルが見えなくなった瞬間心の中でカウントダウン。 5,4,3,2,1 GO! 俺は、レーサーの如く走り始めた。 間に合え!俺!! 暑さなんか気にならねーーっ!!!! ランチタイムのくつろぎの一時をコーヒー片手に談笑しながら歩く人々の横をチェッカーフラッグに向かって突き進むかの如く走る。 あと、もう少し・・・ ゴールは目の前だ・・・。 やばい!奴がすぐそこにいる! ちらっと見やがった。 奴まで歩む足を早めこちらにやってくる。 ダメだ!! 走りながらポケットに突っ込み・・・ シルバーのコインをつかむ。 むかつくように口の端を上げこちらに微笑みかけながら。 チャリン 奴は口元を歪ませにらみつけてくる。 俺は、勝ち誇ったすがすがしい気分で「ふっ・・・やったぜ」愛車に乗り込んだ。 「またな・・パーキングメーター。 今回も俺の勝ちだ」 【終】
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