8 日常

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8 日常

それはそれは朝から暑い日だった。 いつものように片田舎の平穏な1日が始まった。 「兄ちゃ〜ん。とうちゃん元気かな?」 妹の朝子のいつもの質問。 ばぁちゃんちの庭には山のわき水から引いてきた井戸がある。 そこで毎朝顔を洗うのが朝の日課だ。 「うん。元気だろ・・きっと毎日暑いだろうな。 朝子、ほら歯磨き粉ついてる」 口の周りにまだついていた歯磨き粉を手ぬぐいで拭いてやろうとすると、朝子はきまってすっごい嫌な顔をする。 そして、オレから手ぬぐいを奪って自分で拭こうとする。 「ここよりも暑いの?」 首をかしげながらのぞき込むようにオレに尋ねてくるけれど。 オレだって本当のところはわからない。 朝からギラギラと容赦なく照らし付ける太陽と真っ青な空を見ながら 「うーん、西の方だからな・・暑いだろ。 ほら、早くしろ・・ あ、まだ歯磨き粉ついてるぞ」 「やだーーーっ!!!」 「こらぁ〜〜〜逃げるなぁ〜〜〜〜!! 兄ちゃんが食べちゃうぞぉーーーーー! がおーーーーーっ」 きゃっきゃ言いながら走り回る朝子が突然方向転換して縁側から家の中に入り込んだ。 「ほら、てっちゃん。お母ちゃんお味噌汁持ってくるから手伝ってあげて」 「はい」 お勝手に続く土間を降りて母ちゃんから味噌汁の入った鍋を受け取る。 「はい。ありがと哲雄」 なんとなく照れくさい。 「冬子。今日はお産婆さんとこ行くでしょ。 うちで漬けたお漬け物持っていってあげて」 「智子さん、お母さんのお漬け物大好きだものね」 もうすぐオレらの弟か妹が産まれる。 かぁちゃんの生まれた地元の方が、とうちゃんが帰ってくるまで難儀ないってことでばぁちゃんちにお世話になることになった。 いつまでかは・・・わからない。 いたって平穏ないつもの日常・・・ 今日もまた朝から暑い どこにでもあるようなそんな家族の いつもの日常が・・・あと5分で 1945(昭和20年)年8月6日 午前8:10 1945(昭和20年)年8月9日 午前10:57 ー 変わる。
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