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『お待たせしました』
目の前にコーヒーが出てきただけなのに、恐縮してしまいそうななんとも言えない空気感。
それでいて、この店内だけは別の時間が流れているようなそんな雰囲気にしてくれる。
目の前でサイフォン式で入れられたコーヒーの香りは優しく店内全体をいつまでも包み込むように覆っている。
その中で飲むコーヒーからもまた新鮮な優しい香りが漂っていた。
珍しい琥珀色したロザッティと白い角砂糖、そして白砂糖が邪魔にならない位置にきれいに等間隔で並んでいる。
普段彩香はブラック派だ。
まずは、コーヒー本来の味を楽しむためにそのまま飲んでみることにした。
『おいしい・・・す、すごいですね』
その感想もどうかと思うが、それしか形容することが出来ないほどのまろやかさにしっかりとした苦みも感じる。
『そうですか?ありがとうございます』
こんな美味しいコーヒー飲んだことがない。普段は、街角によくあるチェーン店などを利用するし、時間に追われながらなので味わっている時間もない。
そうだ、この琥珀色のお砂糖も少し入れてみようかしら。
ロザッティを備え付けられていたスプーンでコーヒーに入れてみると、途端に優しい甘いかおりがコーヒーから広がってきた。
『なんか、幸せ・・・』
彩香はこの穏やかなゆったりとした時間を思う存分満喫したあと、ふと自分の腕につけている時計に目を落とす。
『あ、いけない・・もう行かなくちゃ』
その途端にさっと裏返しにされた伝票に目を通し、後ろ髪を引かれながらも会計を済ませた。
『また是非寄らさせて頂きますっ!!
本当にありがとうございました。』
「ありがとうございます。
また是非に・・・・」
からん
軽やかなカウベルの音に背中を押されながら彩香の心も身体もカウベルの音色に合わせたかのように軽やかな足取りでビルのジャングルの中に再び紛れていった。
【終】
※この物語はフィクションです。
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