5 静寂な5分間

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******* 突然の雷鳴と轟き、そしてすさまじい稲妻に思わず声をあげた。 「サトミ!大丈夫・・今の近かったな」 「う、うん」 「懐中電灯手元に置いておこう。取ってくるよ サトミ? 大丈夫か?」 数年間の駐在の中で何度も雷雨にあってるし、今くらいの落雷も経験していたけど・・震えがとまらない。 コウイチは、そっと胸に抱き寄せながら背中をさすってくれた。 あったかい大きな手でゆっくりと・・【俺がいるから大丈夫】と語りかけてくれるかのように。 それだけで徐々に安心してくる。 下からのぞき込むように見たコウイチの顔・・・・とっても優しい顔。 息づかいに合わせて動く胸。心地よいな ずっとこうしていたいかも。 「ん?」ちょっとかしげるように私をのぞき込むコウイチに見惚れちゃう。 いや・・何今更。きっと私の顔赤くなってる。 「・・・・」 頭上からコウイチの吐息混じりの笑いが髪を揺らした。 まだ電気は通じているからばっちり見えてるよね?? 「うん、懐中電灯取ってきて。大丈夫・・だから」 「おぅ」 ちょっと挙動不審っぽかったかな?? やっぱりもう少しだけあのままでいたかったな。 今のうちに食事の後片付けもしちゃおうっと。 食器の洗い物をしている時、通常の番組からローカル局のスタジオへ切り替わった。 地元のお天気キャスターが緊迫した声で何かを伝えようとしている・・。 なに??トルネードという単語だけ耳にハッキリ届いた。 「コウイチ!!!!早く!!」 どたどたと廊下の先からやってきたコウイチにテレビ画面を指さして伝えようとするけど、うまく声が出ない。 「サトミ!寝室へ!早く!!」 2人でスマホと懐中電灯を手にし急いで寝室へ向かう。 「クローゼットの中に入ってて!」 コウイチは私をクローゼットの中に押し込んだ。 「コウイチは??!!」 「マットを窓に押しつけるから!早くっ!!」 ものすごい轟音と窓にたたきつける風と雨の音が激しくなる。 怖い・・・クローゼットに入っていた毛布をかぶりスマホでローカルTVの天気情報を出そうとするが、信号が弱くなっているのか?画像がなかなか出ない。 「もぉー!!はやく!!」 ようやく出た画像には、竜巻が発生したことと進路予想図とその地域への到達予想分数。 『この地域の竜巻進路上にいる方は、あと5分です!5分以内家の中の安全な所へ避難してくださいっ!!』 どんどん外の音が激しく大きくなる中、スタジオのキャスターも大声で伝えてくれるので聞き取りやすい。 普段、進路上にいない時は、ちょっと大げさじゃない?と思ってたけど、そうやって大声で緊迫感ある声で伝えてくれると危機感があってすぐに行動に移せる気がする。 「うそ・・・こっちに向かってきてる。 コウちゃん!こっちに来てる!! あと5分だって!!!!!! コウちゃん!!聞こえた??!!!」 更に大きくなる雷の轟きと雨と雹がたたきつける音、そして強風の渦巻くゴーーーーーという音で自分の声すら聞こえない・・・コウちゃん・・・早く。 突然、地響きと共に暗闇と爆発音が襲ってきた。 何も見えず、何も聞こえてこない。 ふっとぬくもりが体全体を包みこんだ。 たくましい胸と腕に囲まれ安心する香りを嗅ぎながら、ただ、ただ、この時が過ぎ去るのを2人で、2人だからこそ待っていられる。大丈夫。きっと大丈夫。 「サトミ・・・俺はここにいるから」 「うん」 短いようで長い、長いようで短い2人だけの時間。 稲妻の刺すような光も、轟音も・・耳に届かないくらいの2人の時間。 しばらくして、あの渦を巻くような轟きも稲妻も・・現実だったのか?と思うほどの静寂が訪れた。 何も壊れていないのか?家の周りは大丈夫なのか?気になるけれど。 もそもそと動き出しているコウイチがスマホの明かりを点けた同時に彼の心配そうな顔が私を見つめていた。 私の顔を見てほっとした顔をしながら、頭と背中をなでながらまた優しく優しく包み込んでくれる。 「行ったみたいだね・・・」 「うん・・・」 「久し振りにサトミからコウちゃんって呼ばれたな」 「あ・・」 きっと私、また真っ赤だ・・・。 「もうちょっとだけこうしてよっか」 こくっと頷きコウイチの胸に顔を埋め、静寂の中お互いの息づかいを聞いていた。 【終】
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