思い出は40年前

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 そんなとき、彼女と出会った。  日本海を臨む富山県の港町。柿繁が住み込みで働いていたのは、カマボコ加工場であった。そこで柿繁と同じく住み込みで働いていたのが琴美という名の女性(むすめ)だった。  人手不足で、高齢化も進んでいた地域で、若い働き手はたとえ身元があやしくても歓迎された。ふらりとやってきた青年でもすぐに働かせてくれた。住むところがないというと部屋まで貸してくれた。  早朝に漁港へと水揚げされた魚が工場に運ばれてカマボコに加工される。湯気の満ちる工場で働く四十代以上のベテラン作業員のなかにまじって一人だけ若い女性がいて、それが琴美だった。  身長はモデル並に高く百七十センチを超えて柿繁と同じぐらい。ハーフなのか、肌が白く瞳の色が若干青い。お人形のようだとみんなからマスコットのように可愛がられていた琴美は、柿繁と歳が近いせいもあって、すぐに親しく話すようになった。休日は二人で海辺まで遊びに行ったりした。お互いこの地方に知り合いがいないということもわかって、親近感がわいて雰囲気はよかった。
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