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「彼女も歳をとっているので、当時のことは忘れているかもしれませんし、会うことができても面影さえないかもしれない。それでもいいんです。女々しいかもしれませんが、あのときの想いを伝えたい」
「よろしいですよ」
先野は白いソフト帽のつばを上げて依頼者に微笑む。室内なのに帽子をかぶり、その色と同じ白い上下のスーツに紫のシャツを着ている先野は、
「おまかせください」
と、芝居がかった口調で言うのだった。その仕草やファッションは、探偵という職業に対する先野独特のこだわりから出ていたが、それがどんなものなのかは誰も訊いたことがなく、社内外の人間からことごとくスルーされていた。
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