汗だく北陸旅情

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「あそこか……?」  先野はウインカーを左に出し、小規模な工場らしき平屋建ての側にレンタカーを停める。  せめて写真の一枚でもあればよかったのだが、あいにく手がかりは依頼者の記憶だけで、「金戸(かねと)蒲鉾」という屋号しかわからない。住所も不明。ネット検索してもヒットしない。  そんな頼りない情報しかないわけだから、依頼者が直接さがそうにも動けない。──だからこそ探偵に頼むというわけなのだが。  先野はクルマを降り、くすんだ赤い屋根の建屋の正面に回り込む。看板でもあればはっきりするのだが……。 「ん?」  建物の引き戸の横に「高橋製作所」と縦書きの手書きされた看板が少し汚れていた。 「違ったか……」  すると引き戸があいて誰かが出てきた。中年の太った女性だった。エプロンをつけている。ここの従業員だろうか。
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