砂の大地のヴィーゲンリート

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昼は熱を帯びた砂の大地も、夜は冷えこむ。 天には幾千万の星々がまたたいている。古くは旅団を導いた星だが、争いが長く続いた今では、星をたよりに歩みを進める者もいない。 人々は蔑み合い、奪い合い、殺し合う。それを聖戦と名づけ正当化して。 神様は、果たしてそれを望んでいるのだろうか。きっとちがうと信じたい。 昼は兵士同士の争いがいつ起きるかわからないから、オアシスへの水汲みはいつも夜に行う。 それが、セレンの仕事。 一度に運べる水の量など、女の子には限られている。それでも生きるために仕方がない。 セレンたちの集落は王族軍に抵抗するレジスタンスたちの根城になっている。大人たちは夜も警護に専念している。男の子も十三になれば戦いに出される。 女たちは兵士たちの身の回りの世話や看護のため、昼も夜も働いている。十になるセレンも例外ではない。 近くに見える椰子の木の生えるオアシスも、実際歩くとかなりの距離がある。 その距離を、毎日毎日、小さな歩幅で何往復もする。 それでも、隠れ家の中でいつ響くともわからない銃声におびえるより、音のない砂漠を星の光のもと、歩く方がやすらかだった。 巡る星々を見上げると、精霊たちの歌声が聞こえる気がする。 こちらにおいで、と手招いてくれる。絶対に、届かない場所だとわかっているけれども。 ダイヤモンド、サファイア、ルビー、トパーズ、真珠、…様々な宝石が輝く空を、古くからの音楽を口ずさみながら眺めて歩くのが、セレンの唯一の遊び時間だった。
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