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程なくして、オアシスのそばから爆発音と共に大きな火炎が上がった。
あの轟音と炎の中で、どれだけの人間が血を流しているのだろう。
少年は、セレンを抱き上げながら思う。
国に平安をもたらすには、犠牲の血が流れるのも避けられない…。
精霊や神の教えを信じていても、人というものは争いをしたがる生き物なのだ。争いを糧にして生きる人間だっている。輝かしい王国の裏の闇は、歴史を重ねるごとに深くなっていく。
次期国王になる者として、その事実に立ち向かう覚悟を持たなければ…そう思い戦場に来たが、すでにその気持ちは少し揺らいでいる。
僕は、なんて心もとないのだろう…。
「イスファーン様! 困ります、安全なオアシスとはいえ一人で出歩かれては…それより、レジスタンス勢力の根城の一掃、完了いたしました。幹部はすべて抹殺、民間人もほとんど爆発で命を落としたと思われ…その子どもは!?」
作戦完了の報告に来た兵隊長は、イスファーンが少女を抱きかかえているのを見て青ざめる。子どもとはいえスパイかもしれない。体に爆弾を巻き付けているかもしれない。
「水汲みに来た女の子。たぶん、ただの女の子。大丈夫…」
「油断なさらないでください! 自分が持ちますから!」
兵隊長はあたふたとセレンを抱き上げる。すやすやと眠る少女は、この血なまぐさい戦場にはあまりにも不釣り合いだ。
「…その子だけでも、救えてよかった」
「けれど、どうなさるのですか、この少女」
「そうだね…召使いにでもするかな。僕の国の言葉を教えて、しっかりした教育を受けさせて、僕の国の召使いにふさわしい女性にする。それをしたとしても…償いにも何にもならないと思うけど」
イスファーンは砂漠の夜空を見上げる。過ちと罪とが刻まれた戦いの後だって、星は宝石のように尊く輝いているのだった。
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