星の降る丘

1/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
苦しまずに死にたい。こう思い続けて何年が経っただろうか。苦しみから逃れるために苦しんで死ぬ。それでは意味がないと考えてきた。だから俺が望むのは苦しまずにこの世から消え去ることのみ。けど、そんな非現実的なことができるわけが無い。そう諦めていた俺だが母の命日の今日、○○座流星群が1番よく見えるらしい。生前母は流れ星が好きだった。そんな流れ星が見れる今日が、母の命日。俺は何か運命的なものを感じた。 高校に進学すればいじめが少しは軽くなると思っていたが、むしろ悪質になった。下駄箱はゴミで溢れ、机の中は虫の死骸、何かわからない骨が詰められ、トイレの個室に入れば水はもちろん排泄物がかかってくることもある。 俺がいじめられるようになったのは中学1年の秋頃。当時いじめられていた子を庇ったことがきっかけだ。それ以降俺を庇うやつなんか出てこなかったし、止めるヤツもいなかった。主犯格がやれと言えば素直に従いいじめに加担するヤツらばかりだった。 教室に入れば当たり前のように罵詈雑言を浴びせられるが、そんなことは気にしない。俺がなぜここまでされても学校に行くのか。理由は単純明快、家にいる方が地獄だからだ。父に殴る蹴るの暴行を毎日加えれられる、肉体的な攻撃が1番辛い。学校のいじめはまだ物理的ないじめがない分耐えられるが精神的には結構くる。父は母が亡くなる前から、酒に明け暮れていた。酔えば母に暴力を振るい、酒が無くなると買ってこいと怒鳴り散らした。 俺が中学に進学すると同時期に母は癌で亡くなった。父の暴力の対象がいなくなると、一人っ子の俺は必然的に殴られるようになった。 体が小さい俺は反抗することも出来ず、ただただ殴られていた。 父に殴られ始めてから、思っていたことは苦しみたくない。それだけだった。だから高校に進学してからすぐバイトを始め、父の酒代に当てた。そうすると機嫌が良くなるが、酔うとまた殴られる。なるべく家にいる時間を短くするために働き続けた。 そんなクソみたいな毎日を送っていたが、母の命日の今日、○○座流星群がいちばんよく見えるらしい。母は流れ星が好きだったなと思いながら母のこんな言葉を思い出した。 「流れ星はね、3回願いを言うと願いが叶うんだよ。それも流れ星の数が多ければ多いほどね。だかられいがこのタイミングだ!って思う時に願うんだよ?そうすればちゃんと願いは叶うから。」 今日だ。そう思った。苦しまずにこの世から居なくなれるかもしれない。誰かに言えばこんなの非現実的だし叶うわけない。そう言われるだろう。でも俺の願いは元々そういう願いだ。だから非現実的なものに頼るしか術がない。 バイトを終えた俺は、1度家に戻った。ボロボロのアパートの1Kに俺と父は住んでる。母が亡くなった直後は家が広く感じたが、今はもうそんなことはなくなった。お金を渡すために父に話しかけた。 「チッ、これだけかよ。もっと稼いでこいよ!バカ息子!」 ドゴォ!腹を殴られた。いつもの事だ。ごめんなさいと聞こえるか聞こえないかくらいの声で言い、その場を離れようとしたがひとつ気になることがあった。 「ね、ねぇ、父さん。今日って何の日か知ってる?」 素朴な疑問だった。父が母をどのように思っていたのか。ただの殴るだけのサンドバッグだったのか、それとも亡くなってから母の大切さに気づいたのか。1度は思いあって結婚したのだろう。後者であることを願った。 「あ?知るわけねぇだろそんなの。舐めてんのか?くだらねぇこと聞いてねぇで稼いでこいよ!クソが!」 父はキッパリとそう言いきった。やっぱりか。少しでも期待した俺が馬鹿だった。やはりこいつには人の心がない。人を道具として、ものとしてしか見てないんだ。こんなのが自分の父なんて…より一層消えてなくなりたいと心から思った。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!