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永遠の恋
純潔を失い、予言者としての資格を失ったから、分からなかったのだろうか。
これまで全てが見通せていたのに、急に全てが見えなくなって。
恐怖し、混乱し、そして見えないオスカーの心に絶望したのだろうか。
「……ばかな、ひとだ」
先ほどと同じ言葉を、少しだけ柔らかく呟いて、オスカーはため息をつく。
でも、たとえそうだとしても、肌を重ねたことを、後悔できやしないのだ。
あの肌に触れずにこの世が終わってしまうだなんて、触れた後の今となっては、想像もできない。
どこまでも甘い声、甘い肌、甘い汗、甘い体液。
脳を壊し、魂を侵食する、甘い甘い、リュカの全て。
何度輪廻を繰り返しても忘れられそうにない、甘すぎる神の毒薬。
「ふぅ…」
小さくため息をついて、オスカーは最愛の恋人を抱きかかえたまま、椅子に座る。
持っていた袋から、ともに飲み干そうと準備してきた葡萄酒と毒薬を取り出して、グラスに注ぐ。
「じゃあ、リュカ様。……またいつか」
一息に飲み干して、腕の中の体に縋り付くように抱きしめる。
徐々に暗くなる視界、聞こえなくなる音。
死が近づいてくるのを意識しながらも、恋い焦がれた肌に顔を埋めて、オスカーは幸せだった。
どこぞの戦場で命を散らすよりも、よほど幸福で人間らしい死に方かもしれない、と笑う。
でも、できれば。
もっと長く一緒にいたかった。
もっとこの人に触れたかった。
「……これは、来世に期待、かな」
掠れた声で小さく呟いて、目を閉じる。
幸い、痛みも悲しみも苦しみもないという、神の国へ往く権利を剥奪されたオスカーとリュカは、このまま永遠に輪廻を回るはずだ。
苦しみ、嘆き、もがきながら、いつまでもいつまでも。
(ははっ、そんな罰は、むしろありがたいな)
声が出せなくなったオスカーは、心の中で笑う。
目も耳も使えなくなったけれど、恋人の匂いは鼻腔の奥で香っている。
昨夜初めて間近で嗅いだ、心を揺さぶる、甘くかぐわしい香り。
オスカーを狂わせる甘い香気は、魂の記憶に刻み込まれているだろう。
(きっと次に会った時も、俺はこの人が分かるだろう……)
オスカーには確信があった。
これは、永遠の恋だ、と。
(……あいしてる)
これが恋じゃないなら、この世にきっと恋はない。
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