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王都を守る騎士
「ったく、ロクでもない……ッ」
忌々しげに吐き捨てながら、オスカーは朝から晩まで王都の中を馬で駆け回っていた。
王城で近衛将軍の地位を賜っているオスカーは、本来は王族を守るべく王城内にいるはずなのだ。
しかし、王都で立て続けに事件が起こるために人手が足りなかったことに加え、遠い地方に家族を残して来た若者達を父母の元へ帰すために、自ら仕事を買って出て、王城を飛び出したのだった。
「あぁ、ちくしょうっ、キリがないな」
問題ばかり起こす国民たちに忌々しく舌打ちしながら、オスカーは息つく暇もなく事態の収拾に明け暮れた。
王の護衛として予言の場にも同席していたオスカーは、予言の夜から一睡もしていない。
余裕のない胸の中では焦燥が渦巻き、切羽詰まった脳裏には恋しい面影がちらつく。
「……はやく、お会いしたい」
部下達を解放して自ら業務に当たっていたオスカーには、今この瞬間、なんとしても逢いたい人間がいた。
初めてあった日から十年以上、恋い焦がれている相手が。
その人のためならば命も、魂すらも惜しくないと思える相手が。
冷静な顔の下に隠した激しい恋情は、死ぬまで胸に秘めておくつもりだった。
オスカーが恋した人は、あまりにも貴い身であったから。
けれど。
「……リュカ様」
どうせ二人とも死ぬのならば。
どうせこの世が滅ぶのならば。
どうか。
「どうか、この想いを」
切ない恋情を胸に、オスカーは無理やり全ての仕事を切り上げ、恋しい人の元に駆けつけた。
神殿の最奥で、己の予言に恐怖している哀れな青年のもとへ。
子供のように震える、愛らしい神子のもとへ。
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