14人が本棚に入れています
本棚に追加
予言者の力
「私は、今の国中の状況を知っております。……予言者ですからね」
「えっ」
椅子を勧められ、腰をかけた途端に告白された内容に、オスカーは目を見開いて固まる。
リュカの肌は透き通るように美しいが、目の下には内面の疲弊を表すように濃い隈ができていた。
「苛立ちのままに暴力を振るう者、余裕をなくして愛した者とさえ喧嘩をしてしまう者、発狂して谷へ飛び込んだ者、子供達と妻をまとめて殺し心中を図った者……数え切れないほどの悲劇がこの国中で起きていることを、知っています。視えてしまいましたから」
涙すら忘れたような顔で悲しげに微笑んで、リュカは目を伏せた。
「私を憎み、神に怒り、この場へ乗り込んでこようとしている者たちがいることも知っています。あなたが彼らを退けてくれたことも。……礼を言います。ありがとうございました、オスカー殿」
「い、え。私の職務でございますので」
リュカの千里眼じみた力に戸惑いながら、オスカーは首を振る。
そして、意を決して顔を上げた。
直視するには眩いほどの美貌をまっすぐに見据えて、しっかりと告げる。
「どれほど荒れ狂う民だとしても、私がいる限り、あなたの元へ辿り着くことはありません。何者が襲って来たとしても、私が必ずや倒してみせましょう。……たとえ人ならざる、神であろうとも、あなたを傷つけることは許しません」
神への誓言にも似た厳粛な空気を漂わせて、オスカーは静謐な表情にかすかな笑みを乗せた。
「ですから、恐れるものは何もありません。あなたは私が守ります、リュカ様」
「オスカー殿……?」
ただの臣下の言葉としては不似合いな、神聖とも言える誓い。
リュカは理解できないとでも言いたげな顔で、目を見開いてオスカーを見つめた。
「オスカー殿、……なぜ、そこまで……」
唇を震わせて、言葉に詰まったリュカに、オスカーは綺麗に微笑んだ。
「あなたを……愛しているからです」
最初のコメントを投稿しよう!