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私はすぐにお寺の境内に走って行った。自分が作った原価のないプレゼント。無価値だけど、言ってしまった以上自分で見つけ出さないと気が済まなくなっていた。「売り言葉に買い言葉」だ。
郷楽寺は遠い昔から町が村だった頃の中心であったことは社会の授業で勉強した。もちろん今でもそうで、花見や祭りになると人が賑わうが、普段は森の中にあるひっそりとした山寺だ。
私は五重塔の前に立ち、てっぺんを見上げた。周囲は木の柵で囲んで、人が入れないようにしている。兄ちゃんはどうやってこのてっぺんに登ったのだろう――。
私が柵を越えようと手を掛けたところ、たまたま私を見掛けた寺のお坊さんがやって来て
「これこれ、お嬢ちゃん。中に入ってはいけませんよ」
と言って中に入るのを止められた。
「どうして、中に入ろうとしたのですか」
という問い掛けに私は正直に答えた。
「兄ちゃんが『おやくそくカードを五重塔のてっぺんに棄てた』って言うんです」
私の説明に首をかしげるお坊さん。私の言うことの意味が分からないみたいだ。
「この五重塔は中に入るために建てたものではないのです」
お坊さんの言葉に私はビックリしてその顔を見つめると、嫌な顔ひとつせず教えてくれた。
「五重塔は外の形に意味があって、入り口もありません。お兄さんが言っているのは違う意味なのでは」
五重塔は下から地・水・火・風・空を意味していてるらしい。当時の頭では分からなかったけど、中に入るための建物でないことだけは分かった。
私は、兄ちゃんに嘘をつかれたと思い、言いようのない気持ちを奥歯で噛み殺しながらひとり家に帰った。
* * *
「やいやい、どこに隠したのよ。あたしのカード」
「だから言ってんじゃんか、『五重塔のてっぺん』って」
家に帰って真っ先に兄ちゃんの部屋に押し入って問い詰めた。
だけど兄ちゃんは、肩で息をしている私を一瞥し笑いながら答えた。
「いつ、どうやって?お坊さんに聞いたら『中には入れない』って言ってたよ」
兄ちゃんは私の煽りに決して乗ることなく淡々と答えた。
「学校の帰りだよ。場所は言ったし麻衣子にそれ以上説明できることはないなぁ」
この時私は、兄ちゃんが優しく言ってくれているのにまた意固地になって
「いいよ、自分で探してやるもん、イーッだ!」
と叫んでは再び襖を勢いよく閉めた。
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