4人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
Physician, heal thyself
独占欲強いかもねえ、と言われてはっとする。
そんなことないです、と答えた自分の声はなんだか裏返っている。
手招きをする、艶っぽい相手がいるかもしれない。
ああ、そうか夜目に遠目に笠の内って言い方があるんだった。
もののけとか、そうだあの人「日本のもののけ」が苦手だって言っていたから、それでたとえればいいじゃない、ああ僕って頭いい。
なのに、裏目に出ている。
馬鹿にすんなみたいな感じで、通話がガチャ切り。
赤い唇をにんまりさせて、着流しも色っぽく、傘を深めにさした女が頭にうかんで、あたふたと首を左右に振る。
お兄さん、遊びましょうとか言って手招きする。
真っ白いもちもちした肌に、つるんとした首筋。
東洋的な色気とか、なんとか。
「怒らないでくださいよぉ……」
情けない声が出て、思わずメッセージを送る。
嫌わないでください、って言えたらどんなにいいだろう。
これじゃ、きっともう……。
悲観して目がじんわりと滲んできたとき、メッセージが入る。
まどの、そとをみて、ください。
ひらがなと、妙に句読点の多いメッセージ。
落ち着け、落ち着け落ち着け。
僕は深呼吸をして、寝つきがわるいためにあえて買った遮光カーテンをゆっくり開く。
なにもない、闇があるだけ。
なんだ、いたずらなんかして。おとなげない。最初からないけど。
うしろ、みて。
メッセージが来る。相手が相手じゃなかったら、ホラーじゃないか。
いらっしゃいませ。と、僕はやっぱり冷静に出迎えた。
もどかしい、なんだかぜんぶ。
ぜんぶ、いろんなことが、ぜんぶ。
最初のコメントを投稿しよう!