だいじょばない

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だいじょばない

 怒っていないですよ、と言いながらまともに顔が見られない。  うつむいているのは、怒っている証拠?どうしよう、どうしよう。  会いたかった。  絞り出すような、泣き出すような声。  ぽふん、と胸元に飛び込むあたたかさ。  会いたかった。  身体中のちからが抜けて、抱きつく。  質量なんかあるはずないのに、ぬくもりなんかないはずなのに。  ……あたたかい。  今は、顔を見ないで欲しい。きっとすごくにやけているから。  今は、顔をあげたくない。きっと泣きそうだから。情けないけど。  夜が明けるまで、いていい?と訊く。  嫌だって言っても、居座るつもりで。    どうぞ、好きなだけと答える。  じゃあまた、と言われたら引き止めるつもりで。  ねえ、今日は何曜日だったっけ?  火曜日だったような。  ハグの日って、まだ有効な話か?向こうじゃちょっと遅れて流行る。  有効だと思いますよ、と答えて背中に手をまわす。虚しかないはずなのに。  数秒が数分になって、ただただ、自分とは違う、太いけれど柔くて黒い髪をなでる。  怒っていないですか?嫌っていないですか?  もう会わないって言いませんか?  口に出せない質問ばかりが、頭の中でミキシングされる。  意味なら調べた、そんなに軽い奴じゃない(不安になんか、させたくない)。  どうだか、話半分に聞いていますし(大丈夫、信じてる)。  今日も言えない、たった少しの短い言葉が。
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