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手を繋いで、私たちは屋上の縁に立った。知らない者同士で死ぬのも気持ちが悪かったので、私たちは本名を教え合った。
彼の名は、相田ヒロキくんというようだ。本当に、良い名前だと思った。
私の名前を彼に伝えると、彼は優しく笑ってくれた。彼も良い名前だねと言ってくれた。
「僕は君と、また来世で逢いたいなって思うよ。こういう出会いじゃなくて、もっとちゃんとした所で。そこで、色々やり直そうね。ユミ」
私、五十嵐ユミは、思う。
命芽吹くもの、いずれは最期を迎える。私もその意見には同感だ。けれど、まだその時期ではないと。欲張りな私は、そんなことを思う。
「ねぇ、ヒロキくん......」
私は遠くを見つめて、最期に訊く。
「あの輝いているの、なんだと思う?」
彼は応える。
「あれはベガかアルタイルだね。夏の大三角はもう一つデネブという星が......」
「違う、ほら。山の奥の光り」
私がずっと待ちわびていた光りだ。徐々に聞こえるサイレンの音に合わせて、赤いランプと白いフロントライトを煌々と照らしている。
徐々に喧騒を取り戻す夜。私一人の力じゃ彼の気持ちを動かすのは無理だと思ったので、こうやって人の手を借りた。人は迷惑を掛けなければ生きてはいけない生き物だと思ったから。
「もしかして、君が呼んだ?」
「ううん......」私は彼に嘘を付く。
「そっか......いやぁ参ったなぁ」
「参ったね......」私と彼のために。
夏の夜はまだ明けない。
了
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