夏の夜はまだ明けない

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 小学校の屋上——。  満天の空の中、流れ星はまるで私たちの逢瀬(おうせ)を祝福するかのように一度ぴかりと瞬いて、スウッと弱々しく消えていった。  同じ価値観、同じ腹案(ふくあん)を持つ相手と出逢えたのなら、それは確かに祝福されても可笑しくはないのだろうけれど。  「......んで。君は結局どうしたいの?」  彼、通称ヒロくんは錆び付いた鉄柵に肘を付けて光に満ちた空を見上げた。その質問は、私に問うているというよりも、この世のどこかに投げ掛けているようにも見えた。  「私は......」  喉が乾いている訳でもないのに、私の声は掠れていた。次の言葉を言ってしまえば、私たちの全てが終わって失くなると、無意識に揣摩(しま)臆測してしまったからだろうか。  「私は?......なに?」  尚もヒロくんは、私の次の言葉に期待しているのか、先ほどよりも目を輝かせて私を見つめてきた。汚らわしさや不純などがまるでない、一等星のような眼をしていた。私はその瞳に向けて、意を決して言う。  「私は......、もっと貴方のコトを知りたい」  「ふーん......」  ヒロくんは口を尖らせた。柔らかそうな唇は大きくへの字に曲がっていた。もしかしたら私の言葉は、ヒロくんにとっては期待外れだったのかもしれない。けれど、ヒロくんも満更でもないといった表情を浮かべていた。  「僕の話をしても、笑えるくらい面白くないと思うよ?」と、ヒロくんは呆れ顔で言いながら、鉄柵にもたれ掛かる。  なので、私も負けじと「爆笑してあげる」と挑発して、同じ鉄柵に背を預けることにした。  鉄柵はガチャンと二回、大きな音を立てた。その音がどこか面白可笑しくて、二人で声を上げて笑い合った。今の私には、こういった心の余裕と気持ちの猶予が欲しくて堪らなかった。
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