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「僕のコト......そうだなぁ」
彼は、一息置いてから告白した。
「......僕、この学校の生徒なんだ」
突如として言い放った彼のその告白には、少しの躊躇いと気の迷いがちらついていた。
私は「そうなんだね......」と相槌を打つ。隠す訳ではないが、実の所私もこの学校の出身であったりする。今は彼の話を訊いている最中なので、自分語りはひとまず控えようとは思うけれど。
「この学校には、良い思い出もあるし、悪い思い出もある。......だから、ココにしたんだ」
彼はひとしきり懐かしさに浸っていた。あらゆる表情を浮かべながら、過去の記憶たちを一顧しているように見えた。
「どうして...廃れちゃったんだろうね」
私は彼に、真実を述べる。
丁度、一年前。この小学校は生徒不足のために終局を迎えてしまったのだ。山あいの学校ながら、約八十年も一つの学び舎として役割を果たしていたのだから、かなり大往生だったのではないか、と私は思っている。
「命芽吹くもの、いずれは最期を迎える。必ずあるんだよ、それが嫌でも」
「最期ねぇ......」
彼は少し寂しがっていた。私だってそうだ。気持ち強がってはいるけれど、過去への愛執は完全に断ち切れていないものだから、私だってこんな所へ来てしまったのだ。よりにもよって、星がこんなにも目一杯輝いている夜に。
しばらく静寂が流れて、私と彼の間に一筋の閃光が流れていった。光を感じた方に目を向けると、さっきと全く変わらない景色が存在していた。この夜が、永遠に続く気がした。
「逆に、貴方はどうしたいの......?」
私は彼に訊ねてみた。全てを言い切ってから、私は訊かなければ良かったと後悔した。私の心胸お構いなしに、彼は一拍置いてから応える。
「僕は君の意見と同じだよ。尤も、君の考えが変わっていなければの話だけど」
彼は、私の考えていることを既に察しているのだろうか。彼の表現には、私に対する侮蔑と彼自身の孤独感が巧みに織り混ざっていた。全て見透かされている気がして、私はくらくらと気分が悪くなった。
この妙な倦怠感は、剣呑で険悪で不安定な雰囲気に似つかない、輝き過ぎる星たちのせいだろう。と、そう思った私は、彼に一つ提案を仕掛けることにした。
「最期に、貴方の思い出の場所を回ってみたいんだけど、一緒にどう......?」
「あぁ......、僕は良いや」
ここで星を眺めながら君を待ってる。と、ロマンチックな台詞を置いて、彼はまた天を仰ぐ。
これで良いのだ。彼は私の誘いになんて乗っからないと思ったから。私は「じゃあ一人で行くね」と言い、スマホのライトを付けて、暗い校舎に溶け込んだ。
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