夏の夜はまだ明けない

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 私たちは、自殺志願者だ——。  偶然にも、同じ場所で、同じ時間に"死ぬ"ことを選んだ二人が、この夜に出会ったのだ。彼と初めて目が合った時、私のこの不当行為について声を荒げて注意してくるんだろうなと思った。  「こんな場所に一人でいるんじゃない」と。  そして、邪魔者を排除するように、私を追い出そうとしてくるのではないかと思った。彼自身の自殺を遂行するためには仕方ないと、私も観念していた。  しかし彼は「そしたら二人で死のうよ」とプロポーズしてくれた。何も知らない私のことを、何も聞かずに全て受け入れてくれたのだ。  私は初めて安心できる場所を見つけられた気がした。友達、先生、親、私と関わってきた全ての人間と反りが合わなかった私としては、彼の存在そのものが特別に感じた。  同じ感情で、同じ目的で、同じ(はぐ)れ者で、私のことなんて何も知らないで。けれども私の全てを受け入れてくれる人間がこの世には居るんだと、初めて知ることができた。  彼のことをもっと知りたい。もっと一緒にいたい。と、今まで抱くこともなかった感情がドバドバと溢れてくる。今、この瞬間にもずっと。  私はスマホのライトを消して、闇を感じる。生きている感覚が鮮明になる。ドクドクと全身が脈打っている。耳の奥の方に、真夜中の音が聞こえる。私は、私たちはまだ、生きている。  「私の、番だ......」  スマホのライトを付ける。闇の中、か弱く光るLED灯は、けれども、夏の一等星として知られるベガやアルタイルよりも光度は強く、力一杯に輝いている。  私は光り(まと)うスマホを強く握りしめる。
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