スターチェイサー

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 ペルセウス座流星群。  僕が初めて知った流星群、夏の風物詩ともいわれ、天体観測が趣味の人にとってはなじみ深いものらしい。  なんでも、流星群ってのは肉眼で観測するのがよいらしく、今、まさに眺める空はまさに星降る夜だ。  普段から星を眺める事をしているだけあってか、流星群という明らかに動きのある星空というのは非常に新鮮だ。  そして面白い、生きていると、つい身近なものばかりに目を向けてしまいがちだが、時にはこうして遠い宇宙に思いをはせるってのも悪くはない。  そうしていると、時には創造的になって、目に入った星々に名前を付けてみたり、勝手に生き物を生息させたりもするってのもいいものだ。  木星に住むカフェオレ星人、土星に住む輪っか星人、火星に住むタコ星人・・・・・・ってのは本の読みすぎか。    そんな、くだらなくも楽しい時間を与えてくれる星空は、宇宙は、人間を新たな価値観へと導いてくれる先生の様だ。  まぁ、何はともあれこの壮大な宇宙のエネルギーを感じるほどのイベントに我を忘れて没頭していると、ふと、おかしなものに気付いた。    オレンジ色に光る何かがいる。  星とは違う、まるで自ら星との区別化を図るかのような色の違い、そんな自己主張の激しいその発行体に僕は窓から身を乗り出した。  興味深い、その一言に尽きるその発光体。  それは幾度か点滅を繰り返している。その点滅は一直線方向に動いているのではなく点滅するごとに四方八方へと動き回っている。  これだけでもわかる、あれは飛行機でも衛星でも何でもなく、まだ見ぬ未確認飛行物体だっ。  あまりの興奮に心拍数が跳ね上がり、夢中で見つめた。それこそ当初の目的である星空の観察を放り投げ、オレンジ色に点滅するそれを目で追いかけた。    こんな流星群の日に、多くの人が星空を眺めるであろうこんな日に、つくづく自己主張の激しい未確認飛行物体なんだ。  そうおもいながら、目で追いかけつつもポケットから携帯電話を取り出し、いざ撮影へと試みようとしていると、目に映るオレンジ色の意確認飛行物体は、何やらこちらに近づいてきているように思えた。  気のせい、そうは思ってみたが、明らかにオレンジの光は大きく、そして僕に向かって近づいてきているように思えた。  あまりに突然の出来事に、思わず思考が停止し、持っていたスマホのカメラ起動すらもできないほどになった。そしてそのオレンジ色の光は徐々に薄く白みがかりながら近づいてくると、その光は目を覆い、閉じなければならないほど強い光を放った。  まばゆい光に支配される視界、しかし、それは徐々に収まっていき、目が開けられるほどまで落ち着いてきた。  そう思い徐々に取り戻した視界、そこには先ほどまでの強い光を放つ未確認飛行物体はいなかった。  一体、なんだったのだろう。そう思い一度ベッドにでも横になり落ち着こうと思った。そうして、窓から離れベッドに向かおうと思うと、そこで信じられないものを目にした。  そこには、僕がいつも寝ているベッドに腰かけ、ニヤニヤと僕を見つめる人、のようなものがいた。その人は、全身を着ぐるみのようなオレンジ色の毛で覆われた成人男性だった。 「こんばんわ」  さも当然のように挨拶してくるその人を前に、声が出なかった。  口だけがパクパクと動き、まるで餌を欲しがる鯉のようになっていただろう。けれども、この夢のように不思議な状況の中、目の前に存在しているであろう人と思われる何かに序腱反射的に挨拶を返そうとした。 「こ、こここ、こんばんわ」  ようやく出た言葉、そしてオレンジ色の体毛のその人は笑顔で何度も頷いた。それはまるで僕とのコミュニケーションを楽しんでいるように思えた。    一体いつから、そしてどこからこの人はやってきたのだろう?まさかさっきの未確認飛行物体の正体だとでもいうのだろうか?  中肉中背、毛でおおわれていない部分、顔だけを見れば中年の香りがする顔立ち、顔だけを見れば普通のおじさんにしか見えない存在はオレンジの毛以外は僕と同じ人間のようにしか見えない。  ただ、突如としてこんなところに現れ奇妙な格好をしているというだけで、同じ人間とは思えなくなってしまう。  しかし、恐怖を感じるわけではなく、興味深いという感情が表に出てくるばかりだ。  なんてことを思っていると、オレンジのおじさんはニヤニヤしながら口を開いた。 「色々聞きたいのさ僕、君、興味あるでしょ面白い」  挨拶の時は普通に思えたが、どこか違和感を感じる喋り方だ。 「な、なんでしょう」 「見てたよね、星、好き星?」 「はい」 「何好き?」 「それは、自分が住んでいる地球以外にもたくさん星があって、もしかするとそのどれかには生き物がすんでいたりするのかなって思ったりしてます」 「ふんふん、いい、いい」  なんだか、とても友好的にも思えるオレンジ色のおじさん、通称オレンジおじさん。癖で勝手に名付けてしまった。 「えっと、あなたは」 「俺、ゆーふぉー」 「え?」 「ゆーふぉーゆーふぉー、はははっ」  何が面白いのか、声を上げて笑うオレンジおじさんはやはりどこか奇妙だった。しかし、それ以上に僕はわくわくしていた。  こんなにも奇妙で面白い存在が目の前にいる。本当ならこっちから質問攻めしてみたいが、どうなんだろうか?  僕は少しだけ考え込んだ後、思い切って質問することにした。 「あ、あの、あなたは一体何者なんですか?未確認飛行物体の正体はあなたなんですか?」 「ゆーふぉー、俺ゆーふぉー、へへへっ」  今度は照れ臭そうに笑うオレンジおじさんはサムズアップしていた、なんだか妙にかわいらしさを感じるおじさんだな。 「と、飛べるんですか?」 「飛ぶ、あぁ飛ぶ飛ぶ、えーっと、スターチェイサーだ」 「スター、チェイサー?」  えぇと、簡単に言えば星を追うものって感じなのだろうか?なんだかカッコいいな。 「追いかける、楽しいぜ」  にやりと笑うオレンジおじさん、その様子を見て、なぜだかわからないがとてもカッコよく思えたのは、この状況があまりに混沌としているからだろうか? 「追いかけるって、どうやって?」 「やるか?」  まるで、今まさに星を追いかけさせてくれるかのような、そんな誘いに僕はワクワクした。そして、ドキドキとする胸を押さえながら何度も何度も頷いて見せると、オレンジおじさんは笑った。  そして、オレンジおじさんはおもむろに僕に背中を向けてきた。  もぞもぞと、何かを取り出すようなしぐさを見せた後、オレンジおじさんは彼自身の体毛そっくりの着ぐるみを僕に手渡してきた。  あぁ、やはりオレンジおじさんの体毛だと思えるものは、やはり着用しているものだったらしい。 「着な、着な」  オレンジおじさんに促されるまま、渡されたオレンジ色のフワフワの毛皮がついた服を着た。特に違和感はないが、来たと同時にオレンジおじさんが僕の肩をたたいてきた。 「似合う似合う」  再びサムズアップして笑顔を見せるオレンジおじさん、笑顔の絶えない幸せそうな人だ。そう思っていると、オレンジおじさんは僕の手を握ってきた。 「さぁ行こう」  不思議な感覚、まるで体が軽くなって宙に浮いているような、そんな奇妙な感覚、身近なでいえば海水にでも使ったような感覚だろうか?  とにかく、浮遊感に近い何かを感じていると、僕はオレンジおじさんに連れられたまま窓の外を飛び出し、宙に浮かびながら自室を飛び出した。  あまりにぶっ飛んだ光景に、もう、頭の中が空っぽの状態になった。  オレンジおじさんに連れられ空を飛ぶ僕、このことを誰かに言おうものならば、俺はその日からは超がつくほどの変人扱いを受けるだろう。  しかし、俺の目に映るのはさっきまでいた自宅と、その付近の景色どんどん遠のいていく自宅にまた戻ってくると誓いながら、視線をオレンジおじさんの方へと向けると、彼は僕に見向きもせずに上を向かって飛んでくれていた。  空に近づく感覚、さっきまで自室で見ていた流星群が少しだけ近くに寄ったような感覚、すべてが異質で、初めての経験をさせてもらっている。  なんて、感傷に浸っていた俺だったが、徐々にこの状況下で、現実的な思考が俺を襲い始めた。  あれ、待てよ、このオレンジおじさん俺をどこまで連れて行く気だ?  そう思うと、今度はワクワクではなく恐怖を感じ始めた。どんどん上に行くのはいいが、ここまま宇宙空間に行って・・・・・・あれ、宇宙空間に行くと人間ってどうなるんだ?  窒息?  血が沸騰?  ミイラ化?  爆発?  ネガティブな思いが巡る中、唐突にオレンジおじさんが振り返った。彼は相変わらず笑顔でサムズアップしていた。その様子を見て、どういうわけか僕は安心した。  そうして、フワフワと上昇することしばらく、気づかぬうちに僕は宇宙空間にいた。  地球は青かった、しかし、周りを見渡しても神は・・・・・・僕の隣に笑顔のオレンジおじさんがサムズアップしている。  あれ、もしかしてこのオレンジおじさんって神様だったりする?  なんだか、もう訳が分からなくなり始めていると、ふと、オレンジおじさんが何かを指さした。  指さした方向には隕石と思われるものがスイーッと地球の方に向かっていた。  とても大きなものではないが、それでも地球に向かって直進する隕石に恐怖を覚えた。  そんな、とんでもない光景にたまらずオレンジおじさんに目を向けると、彼は僕の手を引いて隕石の方へと向かった。  速度は感じないが、まるですべての抵抗がなくなったかのようなスムーズで異質な移動をしていると、見る見るうちに地球に近づく隕石の元へと近づいた。  こんなにも近くで隕石を見れるのかと、思わず興奮していると、ふと隕石の背後といえばいいのか、なんというのか、とにかく隕石の直進方向とは反対側、陰となる部分に、何か緑色のものが張り付いているのに気付いた。  そして、その緑色はふさふさとした芝生のような、毛皮のようなものをまとった人であり、今まさに隣で宇宙旅行を体験させてくれているオレンジおじさんと同類のような人がいた。  しかも、緑色の人はおじさんではなく、目鼻立ちの整ったきれいなお姉さんだった。しかも、こちらの存在に気付いたのか彼女は僕たちに向かってウインクしてきた。  その様子にたまらずオレンジおじさんに目を向けると、彼は両手でサムズアップしながら今までで一番の笑顔を見せていた。  どうやらこういう人たちにも男女があって、僕たち同様に美しいものに惹かれる様だ。  そして芝生のような格好したお姉さん事、芝生レディは隕石と共に地球へと向かっていった。  その様子を見送った後、オレンジおじさんは芝生レディのお尻を追っかけるかのように僕の手を引いて地球へと向かった。  宇宙空間から地球に戻る、いや、入るっていう感覚に近いそれを初体験している僕は、やはり、あまりに無抵抗な移動に違和感を感じた。  しかし、これほどまでに貴重な経験をしている僕はそんなちっぽけなことを考えるのは無粋だと思った。  今はとにかく、この素晴らしき経験を楽しもう、そう思いながらオレンジおじさんに連れられていると、先ほど地球に入っていった芝生レディと隕石が光を放ちながら地球に真っ逆さま。  すると、突然隕石がばらばらに砕け散り、分散、小さなかけらくずばかりとなり燃え尽きて行っているのが見えた。  思えばあそこには芝生レディがいて、あの人はどうなったのだろう。そう思いながら心配していると、突如として緑の光が瞬いた。それは、四方八方に乱れ飛び、どこか遠いところへ飛んで行ってしまった。  それはまるで、僕が見たオレンジおじさんにとても近いものであり、すぐにオレンジおじさんを見ると、彼はサムズアップをしながら笑っていた。 「スターチェイサー、わかった?」  まったくわからない、けれど、そういう生き物がいると思えばわかったつもり位にはなれるのかもしれない。  とにかく、僕は何度かうなづくと嬉しそうに僕の肩をポンポンと叩いてきた。 「この星、いい、センスいい」  オレンジおじさんは唐突にそんなことを言った。 「センスいい?」 「俺たちはいつでも星を追い求めてる、この星はいい、だからこの星、大切にしてほしい」  オレンジおじさんは相変わらずの笑顔でそういうと、僕の手を引いて自宅まで戻してくれた。  自室に戻るとオレンジおじさんは「毛皮返して」と言ってきた。  僕はすぐさま来ていたものを脱ぎオレンジおじさんに返すと、彼は背中を向けてもぞもぞとした後、笑顔で振り返った。その手には借りたはずのオレンジ色の服はなくなっており、まるでオレンジおじさんの体に吸収されたかの様だった。 「また、会おうぜ」  そういうと、オレンジおじさんはとてつもない光を放った。それは白とオレンジの混ざり合ったまぶしい光だった。  再び視界が戻った時、僕の部屋はいつもの見慣れた光景だった。そこにはオレンジおじさんもいなかった。  まるで夢のような時間だった。  僕は、それを夢では終わらせたくなかった。すぐさまおじさんが座っていた場所を確かめて、オレンジ色の毛が落ちてないかとくまなく探してみたが、一本たりともそんな色の毛は落ちていなかった。  ・・・・・・まぁ、その方がロマンがあるってものなのかもしれない。  僕は、少し感傷的になりながら開けっ放しになっていた窓から外を眺めると、夜空には幾つもの星たちがキラキラ、サラサラと降り注いでいた。      
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