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真新しい白のワンピースを着て携帯を見る。
あと5分で家を出なければ電車に間に合わない。
でもそれは用事かもしれないけど、用事じゃないかもしれない。
家にあるカバンの中で唯一のブランドバックに財布とポケットティッシュと香水をつけたハンカチを入れたはいいもの、悩んでチャックを閉められない。
ベットに置いてあるカバンの横に座る。
携帯を握りしめ、下を向くとせっかく巻いた髪が寂しそうに揺れる。まるで本当に行かないの?とささやいている。
そうだよね。やっぱり行った方がいいかな。もうこんなことないかもしれない。最後の機会をまた逃すのは嫌だ。
立ち上がって鏡に向かう。
ああピアス付けてない。アクセサリー箱を開け、ピンクの石が付いたものを選んで鏡を見ながらつけようとする。
石にライトの冷たい光が反射している。本当に行くの?あいつはあんたのことそんなに考えていないじゃん。そんな男なんてほっとかないとまた傷つくだけだよ。
そうだよ、あいつは人の気持ちも知らない人だ!勝手にすればいいんじゃない?
カーディガンを脱いでそのままベットに寝そべる。知らない、知らないもん!
かちかち
アナログ時計がうるさい。
そういえば今何時だ。
時計を見ると1分ほど時間が過ぎてた。走れば間に合うかな…。
って何考えてんだ!
両手で頭を抱える。
ああ、もう!今しかない!!
急いでお気に入りの赤いヒールを履いて玄関を出る。カバンは開いたままだし少し肌寒い。
でも今の私は勇気を身に着けた勇者だ。自分の息とヒールの音だけ聞こえる。
私は、君に会いたい。
君に会いたい。
最後に君に、好きって言いたい。
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