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好きという気持ち
ごくごく普通の冴えない落ちこぼれ高校生、それが私だった。
勉強は普通、か少し出来ないくらい。究極の運動音痴。数個の動画サイトと数多の小説投稿サイトを反復横跳びしている、どこにでも居るヲタク。
そう、何もかもがありふれていて、「ごくごく普通」という表現の良く似合う人間。
あるひとつの特徴を除いては。
「まぁ、それも最近認められつつあるけどね。…………のん、聞いてた?」
先程から長々と語っていた女の子が私の顔を覗き込む。無駄に整った顔が視界いっぱいに映る。
下村 乃々花(しもむら ののか)、それが私の名前だ。友人はみな、面倒くさがってのんと呼ぶ。
「んぁ?あぁ……聞いてたよ、ひな」
横井 日菜子(よこい ひなこ)。
一見するとクラスの女王のような雰囲気さえ醸し出している、鉄の心を持つ女の子。しかし、仲良くなってみないと分からない可愛げを持ち合わせている。
そんな彼女には、口を開けば惚気話、というくらい好きな相手がいる。
いや、本当にそうなのかは知らない。だが、どうしても私にはそうとしか聞こえないのだ。
ここでは「あの人」と呼ぶことにしよう。
「あの人、本当に写真とか撮らせてくれないからさぁ……んふふ」
そう言って見せてきたのは、日菜子のLINEのホーム画面。丸いアイコンの背景画は、貴重だというその人とのツーショットだ。
日菜子はどう考えてもあの人にベタ惚れしているが、相手の方はそうでも無いらしい。というより、ツンデレが過ぎてどう思われているのか分からないと言う。
「あの人、私の名前だけ絶対呼ばないんだよね。ねぇ、とか、あのさ、とかばっかりで」
「ふーん」
日菜子の恋話には適当に相槌を打つが、こんな私にだって好きな人くらいいる。
でも相手は、違う人に片思いをしているらしく、私のことは都合のいい友達だと思っているようだった。
同じ教室の中で無邪気に笑うその人に目をやる。ここでは便宜上「彼」と呼ぶことにしよう。
振り向きかけた彼と目が会わないうちに、私は目を逸らした。
もともとヲタク仲間だった私と「彼」は、二次創作やら何やらで学んだシチュエーションを互いに実践する、不思議な関係になっていた。
例えば、「彼」が私の後ろに回って、私のポニーテールを掴む。反抗しようとした私が振り向くと、「彼」は私の髪にリップ音をたててキスをした。
「髪へのキス。意味知ってる?」
「……『愛おしい』」
「んふふ、正解」
キスはする場所によって意味が違うらしい。つまり、特定の場所へキスをすれば、暗号のように相手に気持ちを伝えられるというもの。
私は首筋へのキス「執着心」もしくは喉へのキス「独占欲」で仕返しをしてやろうと目論んでいるが、なかなか勇気を出せない。
当たり前だ。相手は遊んでいるだけなのだからキスくらい簡単で、私は大本命なのだから、うるさい鼓動に邪魔されて、なかなか実践できない。
「愛おしい」なんて言われたら好きになるに決まっているのに、「彼」はどうも私に靡く気は無いらしい。
吐いたため息が日菜子と重なる。
私たちは顔を見合わせて軽く笑った。
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