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「単刀直入にきかせて貰うが、息子はいじめを受けているのだろうか?」
「イジメとは少し違いますね。報復、?と言った方が正解に近いですね。」
誰がやってんだよって思うがな!
「報復??息子に非があって、あんなに傷だらけになっているというのか?」
「まぁそうですね。正確には彼がイジメる立場の人間でした。」
「そんなわけないじゃない」
今まで押し黙っていた母親が立ち上がり声を発した。
「なんの証拠があってそんなこと言ってるのよ。
ありえない、あの子が、そんなことする訳ないじゃない
そうよ、だってボロボロになってるのはあの子なんだから」
まさに鬼の形相で俺のことを睨みつけていた。
「やめなさい。
お前は感情的になって話が出来なくなるから黙っていなさいとさっき言ったはずだろ」
冷静だが力強く目で訴えかけるように
静止していた。
「すまない、お見苦しいところを見せてしまった。
だが!
私も息子が人を虐めていたと言うのを、信じるには少し抵抗がある。
何か証拠はあるのかな?」
「そうですね。証拠は俺ですね、
俺自身が彼に虐めを受けていました。
まぁ言葉だけでは信じられないですよね。」
俺は上着のボタンを外し服を脱ごうとした。
「何をしているんだ。急に」
「え!あぁ証拠を見せるんですよ。」
そう言って上半身を見せた。
『被害者』の両親は2人とも言葉を無くし
あの日見た『被害者』と同じような、鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。
「何ということだ。!こ、、、、こんな」
驚くのも無理はないだろう。俺の体には無数の傷跡に火傷の後。
正直、醜い体だ!
「全て彼がやったものではないですが。
全て彼が命じた傷です。
この火傷の後なんか理科室のアルコールランプで熱したハサミを彼に押しつけられた物ですね。
大体大きい傷や初めての傷なんかは彼が皆んなに、こんな風にするんだと見せつけて、
後は自分の痕跡を消すかのように他のクラスメイト達に同じようなことを命令するんです。
彼に対してクラス全員、何一つとして逆らうことができないほど恐怖していました。
まさに恐怖の独裁者、それが学校での彼でした。
どの傷も、その時のことを
俺は鮮明に覚えているので、いくらでも説明できますよ。」
その時、母親が
バン!!っと机を叩き椅子を倒すほど勢いよく立ち上がった。
「いい加減にして!
ど、独裁者なんて、
あ、あなたが、酷い虐めを受けていた証拠にはなるかも知れないけど、あの子がやった証拠なんて一つも無いじゃない。
分かったわ!!
主犯がいるのよ。
あの子を貶めようとして、ぬれ、寝れ着ぬを
、、、、
そうよ、そうに違いないわ。
あなたはその主犯に、あの子に寝れ着ぬを着せるように言われたんじゃないの?
そうよね。
あの子が、こんな酷いことできる訳ないじゃない。!!」
人の母親に言うことではないかも知れないが完全にヒステリックを起こしてしまっている。
「黙りなさい!」
内心怯えてしまうほどの大声だった。
大人の本気で怒った顔は自分に向けられたものではないと分かっていても怖いものだ!
それが。
真剣であればあるほどに……
「で、でも、あなた……こんな、こんなこと
あるわけないじゃない、
あの子が、こんな……恐ろしいことするわけ……」
「座りなさい!もう何も喋るんじゃない。」
そのあと少しの沈黙があり
...…
………
目元を押さえて長めのため息を吐いてから
冷静さを装うように
重い口を開けた。
「とりあえず服を着なさい。」
服をすぐに着て話を聞く姿勢を作った。
「申し訳ないが、やはり俄かには。信じられない
私から見た、息子は何でも出来るが故に退屈しているところは確かにあったが卑怯な真似や誰かを傷つけるような人間ではなかった。」
「卑怯な真似をする必要がないくらいに彼に才能があっただけですよ。
彼には勝利することが当たり前で、そして彼なりの完璧な勝ち方に美学を得ていたんですよ。
努力して努力して彼の前に立ちはだかった人に対して才能だけで勝ち。
敵になった人間の努力を全部無駄にする。
それが彼にとっての勝利
それに優越感覚え、そして負けを知らない彼は勝利に執着した。」
本当にガッカリしてしまった。
俺は『被害者』のことは本当に嫌いだったが
どこがで尊敬……嫌、憧れていたのだろう。
頭のキレかた、人を支配する能力、本当に何の努力なんてしなくても何でも出来てしまう
彼に…….憧れてしまっていたのだ。
「最初に僕が2つした質問で分かったことを話しますね。
彼はお父さんが入院したから色々なことを諦めた訳じゃないです。
世の中には努力する天才も現れる。どのジャンルに置いても高校生になればゴロゴロいる。
そんな奴らには才能だけでは勝てない
もちろん『被害者』がほんの少しでも努力すれば、その才能で、そんな努力する天才達を超えるのは簡単でしょう
でも、その勝ち方は彼の美学とは違う。
努力した人間を高みから握り潰す彼の美学とはかけ離れている。
だから彼は負けないように
勝ち続けるために逃げたかった。
お父さんが病気になったことは彼にとって
勝ち逃げすることの大儀名文になっただけで
彼は何も諦めたりなんかしていない。」
飾ってあるトロフィーは
色んなジャンルのものが大量にあった。
よく言えば色んなもの。少しかじっただけで1番を獲れる、天才。
悪く言えば
一つのことを続けず、努力する天才に
出会う前に他のものに逃げているだけなのだ。
常に1番でいたい『被害者』の象徴がこの大量のトロフィーだ。
正直くだらない。
何が美学だ。
負けたことがないから
負けることが怖いだけのちっぽけな、ただの人間じゃないか
そして俺自身にも本当にガッカリしてしまう。
ないないと思っていた自分自身のプライドが!
こんな小さな人間に虐められていたのかと、
自分をいじめていたやつが
天才で誰からも恐れられている。
人間だと思っていたやつが
負けることを怖がり。逃げるような人間だった。
自分を虐め
死にたいと思うほど苦しめた人間が
弱い人間だったことにガッカリし怒りを覚えてしまう。
自分をイジメる人間が最強最悪に天才じゃないと嫌だという、
こんな惨めで醜い思いが
俺には存在しないと思っていた本当に残念な
プライドなのだ。
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