カタツムリは、手のひらの罪を見つめる

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カタツムリは、手のひらの罪を見つめる

______________________________ 9月11日水曜日 午前8時15分 3日目 カレンダーに斜め線を入れて あと今日を入れて3日間、 全て計画通り順調に進んでる。 それにしても最近のカメラってのは凄いな動画とかも撮れるんだな。 __ ………高そうだ! 正直今日やることを考えると 気が引ける。 少しのミスも許されない。 腹の底から ため息が出る。 ______________________________ 午前11時26分 写真部顧問に住所を聞いた時、 一応俺が行くことをご両親に伝えるようにお願いしておいた。 マンションのオートロック前 チャイムを鳴らす。   そういえば女の子の家に訪ねるのは 生まれて初めてだった。 こんなふうに来ることになるとは、 つくづく俺の青春ってのは群青色だなぁ 少して『カメラ女子』の母親がインターホンに出て家に入れてくれた。 「ごめんなさいね。わざわざプリントを届けに来てくれて 今日半日授業だったんでしょ? 暑かったでしょう、すぐにお茶を出すから」 そういう感じの設定になっているんだな、 先生が適当に伝えてくれたみたいだ。 「いえ、お構いなく すぐ本人に渡しますので」 「あら、そう? うちの子最近凄く調子悪いみたいで あんまりご飯も食べなくて…… あ!あの子の部屋はそこだから お願いね。」 「はい、ありがとうございます。」 『カメラ女子』の部屋の前。 普通はノックとかしたほうが良いんだろうけど ガチャ 人生初の女子の部屋は 電気がついておらず タオルケットをかぶってカタツムリみたいなことになってる『カメラ女子』がいるという なんとも不思議な光景だった。 「ごめん、お母さん、お昼も食べれそうにないの。」 明らかに鼻声できっと泣き続けていたのだとわかる声だった。 俺は勉強机の椅子に座り、なるべく優しい声で話しかけた。 「ごめんな、お母さんじゃなくて」 「え!」 カタツムリ状態の隙間からこっちをみて 飛び上がるように驚いて ベットから転げ落ちた。 まぁ急に男が部屋にいたら驚くわな 「大丈夫か?」 「え!なんで、ここに?」 「とりあえず、起き上がってくれ、 あと電気つけて良いかな?」 フリーズしたみたいに固まって 俺を見つめていた。 俺は扉の近くのスイッチを押して電気をつけた。 「届けもんがあって来たんだ。」 鞄からカメラを出して『カメラ女子』に少し届かない手前に投げた。 さっきまでフリーズしていたとは思えないほどの俊敏な動きでカメラを掴んだ。 まるで 蛇のオモチャをみて飛び跳ねる猫みたいだった。 「ナイスキャッチ」 「これ?私のですか!、……どうして?」 どうしてと言う質問はあえて無視して もう一度椅子に座った。 「俺は君に考えたほうがいいって言ったろ、一人の人間の命について。 それと、なんの罪悪感もなく、のうのうと生きることを許さないって それで、君が考え出した答えが こうやって引きこもって逃げることなのかい?」 彼女は 手に持ったカメラを見つめ、唇を噛みしめていた。 俺は胸ポケットに入れておいた写真を出した。 「みろよ。この写真 本当に幸せそうに笑ってやがる。飛び降りながらできるかよ、こんな顔……… それで、 こんな写真撮れちゃう君は何をどう考えたの? 君の言葉でちゃんと聞かせてよ。」 俺は、彼女をちゃんと傷つけて強くしないといけない。 そう自分に言い聞かせてやってはいるが、やっぱり気は乗らないなぁ 誰かが言っていた。 痛みの無い教訓に何の意味もない。 痛み、傷つき、 それを乗り越えた先に 強さ、優しさ、 何かを得たと言えるのだと。 しかしこの世の中は 痛みを伴ったところで手に入らないものだって沢山ある。 痛みを伴ったから手に入るなんて ただの欺瞞で怠惰な話だ。 それでもこの痛みは 傷として抱き続けて、もらわないといけない。 逃げて忘れるなんてもっての他だ 彼女には痛みで強くなって 救われて貰う。 そのためなら俺は 誰を傷つけることも 厭わない、 幸いずっと悪の独裁者に鍛えられてきたんだ。 人を傷つけるのは、お手の物さ さあ ……悪になろう。
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