カタツムリは、手のひらの罪を見つめる

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「わ…私は、 自分が怖くなりました。 この間あなたが言ったように あの日彼の写真を撮ってる時、私多分、笑っていたんです。 落ちた後も駆け寄ることも誰かを呼ぶこともせずに どう撮れたか、確認したくて 写ってた写真は私がいつも撮ってる 大好きな写真、誰かの笑顔の写真 どうしてこの人はこんなに笑顔なんだろうと思った時に 気がつきました。 人が飛び降りたってことに それでも私は動けませんでした。 彼が笑顔だった気味の悪さと自分の狂気じみたカメラへの欲に 吐き気がして視界が歪んで 物音に気がついた先生たちが来るまで私は座り込んだまま何にもできませんでした。 今までの自分が偽りで心の中の本物はこんなにも醜い人間だった。 それを否定したくて、でも あの写真が頭から離れなくて その写真を思い描くたびに、人生であんな写真二度と撮れないんじゃないかって高揚して 頬が笑おうするんです。 人の死を笑ってしまう醜い私は もう二度と、カメラを撮る資格なんて.....ない 私は私が怖い」 涙を流し話す彼女の唇は噛みしめすぎて血が滲んでいた。 罪悪感と自分の中の闇とのギャップについて行けず、どうすればいいのか答えを見出すこともできず、悩み、苦しみ出した答えが、逃げることだった。 醜い自分が見えなくなるまで、暗闇の中で耳を塞ぐことしかできなかったのだろう。 「カメラを撮る資格がない?、そう思うならちゃんと諦めれば良かったじゃないか。」 「わ!私はちゃんと諦めました。カメラだって先生に渡した。それなのにあなたが持ってきたんじゃないですか。」 「は?笑わせんなよ 本当に諦めたのなら、二度と写真を撮るつもりがないのなら、預けるなんてしないで捨てるなり壊すなりしろよ。 未練が見え見えなんだよ。さっきも投げた時あんな必死に取って 時がたてば許されると思ったのか? 自分を許すことができると? 逃げた先にまだカメラを撮る未来があるかも知れないと だから壊さず捨てず、預けた。 違うか?」 「ち.....違います。私はもう二度と……」 「じゃあ、証明してみせろよ。 言っておくが逃げても逃げても追いかけてくるぞ。 自分の醜さ、罪悪感は 自分を許すことなんて出来やしない、目を背けても隠れても消えたりなんかしない。 それは影と一緒だ。 暗闇の中にいれば見えなくなった気になるが 光を浴びればそれは必ず現れる。どんなに小さな光でも 本当に諦めたいと、いうのなら 今それを、カメラを壊して俺に証明して見せろ。」 彼女はカメラを強く握りしめ 見つめた。 震えるその手は頭の中では壊せ壊せと葛藤しているのが読み取れるようで。 でも、表情はそれとは真逆に壊したくないと溢れる涙でぐちゃぐちゃになっていた。 「壊せれないのか? でも諦めるんだろう、醜い自分が嫌で カメラを撮ることを辞めてしまいたいんだろう。 …… なら……… 俺が、手伝ってやろうか」 俺は彼の写真を手に取り 彼女の目の前にまで行き、破り捨てた。 「いや!!いやぁ!!なんで……何で?こんなこと……するの?」 彼女が握りしめているカメラの上に手をおいた。 「どうすんだ? 一思いにドーンと行くか? それとも逃げ続けるのか? 忘れるのか。 お前も彼を忘れるのか、消してしまうのか自分が苦しいから最初から居ないかのようにするのか そんなことが本当に許されると思っているのか」 「ごめんなさい……ごめんなさい………ごめんなさい」 彼女は泣きながらカメラの上に蹲りながら謝り続けた。 「辞めないと……諦めないといけないのは……分かって、いるんです。でも…… 私は……どうしても諦められないんです…… これしか……私にはないんです どんなに醜くても恐ろしくても 私にはカメラしかないんです。 ごめんなさい……ごめんなさい」 俺は握っていたカメラから手を離し彼女の肩に手をおいた。 一呼吸おいて なるべく優しく声をかけた。 「謝らなくていい。謝って欲しいなんて そんなことは望んでいない……」 …… ……… 「俺は…… ……… それでいいと思う 諦めなくていい」 彼女は驚き顔をあげた 「確かに君のやったことは非人道的な、間違いだと思う。 だから何があっても 俺はそれを肯定することは絶対にしない でも 君の写真には才能がある。 技術とか俺には分からないけど、 君に撮ってもらった誰もが、最高の笑顔だった。 誰もが!君には本当の笑顔を向けられる。 それは…… 君に写真を撮られる前は死ぬ以外の選択が出来なくなるまで孤独で絶望して頭がおかしくなってしまっていた人間ですら 本当の笑顔にしてしまうんだから。 そして、こうやって君の撮った写真を、 笑顔を見て、幸せな気持ちにさせられる。 君の写真には沢山の人を笑顔に変えられる力がある これは才能だよ。 誰かを幸せにできる。最高な才能だ。」 「で…でも……わ…私は 見殺しにしたんですよ。あなたの親友を 私を恨まないんですか。」
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