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レンズ越しの笑顔は、美しさを遥かに超えていた
あと1時間くらいしかなかったけれど。
初めてサボった学校の帰り道は不思議な感じがした。
太陽が目眩がするほど眩しくて、
体は汗をかいて、中のシャツはずぶ濡れになっていたが、
全くと言っていいほど、暑さを感じなかった。
ずっとずっと
寒くて冷たくて仕方なかった。
汗が体を通る気持ち悪さだけが残って
もう歩く気力も無くなって
その場に立ち尽くして
ただ空を見上げていた。
突然鳴らされたクラクションに
意識を取り戻し
道路の端に避けた。
運転手に罵声を浴びせられたが
何を言っているのか分からなかった。
その時初めて
自分のスマホがなっていることに気がついた。
画面には『親友』の母と映し出されていた。
すぐに出ようとしたが
手が震えて、なかなか出ることが出来なかった。
苦戦しながら、なんとか電話に出ることができたが
僕はきっと、すごい罵声を浴びて泣いて恨まれるだろうと!覚悟してスマホに耳を当てた。
スマホ越しの声は泣いていたが
それは予想外の言葉だった。
「意識を取り戻したの、あなたに逢いたがってる、すぐに来て。」
スマホの音が遠く聞こえる。
周りの音が全て遠くに行くような。
そうだ、確かに大人は誰、一人として彼が死んだなんて言っていなかった。
感情が戻ってくる感じがした。
止まっていた血液が不意に流れ始め
全身大量の針で刺され続けられるような痺れを心に感じた。
それと同時に今までの体温も戻ってきて目の前が歪んで見えた。
吐き気が止まらない、気持ち悪い。
けど
足が動いていた。
今すぐに逢いに行かないと!
気持ちが、足を、体を、勝手に動かしていた。
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病院についた頃には冷静になっていた。
会ってどうする?
何を言えばいい、何を聞けばいい?
僕のせいで飛び降りたのか?
そんなことを聞いてどうするつもりだ。
僕は彼に会っていいのか?
また手足の先が冷たくなっていく
そんな僕の思考を置き去りに足は彼の病室に向かっていた。
扉を開けると
そこには
いつもの優しい顔の『親友』がそこにいた。
やぁ、なんて軽い挨拶をして僕を手招きした。
「お母さん少しだけ2人きりにしてくれない?」
彼は優しい口調で母親にお願いをした。
『親友』の母は少しだけ躊躇して、彼を見つめ黙って外に出た。
僕は一言も発することが出来なかった。
喋ろうとしても上手く口が動いてくれなかった。
彼を見たときに心から溢れた
『その言葉』を僕は言えずにいた。
「とりあえず汗を拭きなよ。あとこれ麦茶、飲んで、まさか走ってきたのかい?」
驚くほど彼はいつもどおりだった。
飛び降り自殺をした人間のそれではなかった。
はっきり言って異常だった。
学校の屋上から飛び降りて両足の骨折と体のいくつかに打撲ができただけで済んだらしいが
両足の骨折は済んだって言葉で、言えるほどのものではなかった。
「君をここに呼んだのには理由がある、君にお願いがあるんだ。」
そのあと彼は僕に、"ある"お願いをした。
僕は黙ったまんま、ただずっと彼の話を聞いた。
そして
決意をした。
僕が人生をかけて、やらなければいけないことを
これが僕の産まれてきた理由なんだと。
そして『親友』は最後に僕に見せたことないような真面目な顔で言った。
「君のせいじゃない。僕が弱い人間だったからさ、君は君を責めてはいけない。僕が愛した君を、君も愛してほしい」
そう言い切ると彼は、眠るように、気を失った。
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