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僕の言葉に彼女は立ち止まった。
驚いているのか?表情は見えなかったが
強く握りしめた彼女の小さな手が物語っていた。
「君は屋上に今にも飛び降りそうな『親友』を見つけ。本能的に、カメラを向けて写真を撮った、
興奮状態だった君は救急車を、呼ぶなんて微塵も考えずにカメラにどう写ったか確認して、
カメラ越しの笑顔に正気に戻らされた。こんなとこかな」
彼女は充血させた目で涙を流すのを我慢しながら
振り返り口を開いた。
「なんで分かるんですか?」
「僕は『親友』がどんなやつか知ってる。どんなに自分が死ぬ直前でも人に笑顔を向けられるような、人間なんだよ。」
それがどんなに異常なことだとしても
彼は人のために、そういうことをするのだ。
「そして君のことも少し知ってる。コンクール受賞作品、見せてもらったけど、ご老人と子どもが手を繋いでる笑顔の写真で、
そのほかの写真も色々と見せてもらったけど、
どれも人が写っている写真は、笑顔の写真だった。
ちなみになんだけど君のところの部長は口が軽すぎると思うよ。」
学校をサボっている間に写真部に行って、
見せてとお願いしたら普通に見せてくれた。
正直美しいと思った。こんな一瞬を切り取ってしまえることは才能だと思った。
何より誰もが彼女に作り物ではない本物の笑顔を向けていることに彼女の人柄がわかる写真だった。
このことを伝えて君には才能があるなんて伝えることはとても簡単なことだけれど
きっとそれじゃあ、彼女は救われないしカメラを持つことは二度となくなるだろう。
それほど美しい写真を撮れる人間だからこそ、『親友』の写真とのギャップに耐え切れないのだろう。
「すごいですね。なら私が辞退した理由もカメラを辞める理由も分かりますよね。」
堪えていた涙はもう決壊していて、
それでも目を見開き僕を見つめているのは
自分には泣く資格すらないと思っているからだろう。
そしてその涙は『親友』への涙ではなく
カメラを諦めなければ、いけないことに対しての涙だと思い込んでいるんだろう。
なら慰めではなく、
きっちり傷つき、その痛みで強くなって、
救われなければならない。
「あぁ、辞退して正解だと思うよ。正直君を探してたんだ。君が、このことに関して全く罪悪感もなく、のうのうと生きているんだったら、絶望に叩き落としてやろうと思ってたんだけれど。
見た感じ、勝手に自滅してくれそうだし」
彼女は目を伏せ黙り込んでしまった。
「一人の人間の命のことだ、この学校はもう少し考えた方がいい。君も、もう一度頭を整理して良く考えるといい。」
僕は立ち上がりその場を去った。
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うちの学校は4階建てで屋上への入り口は引きドアが一つしか無い。
その屋上の扉はいま立ち入り禁止のテープが貼ってあり、
入るには鍵が必要な状態になっている。
屋上の扉の前に立っていると
第二の目的が現れた。
「おい、お前はあいつの後追いをして死んだって噂になっていたぞ。」
挑発するような笑顔で僕に『被害者』が話しかけてきた。
「まぁお前みたいな臆病者にそんなことできねぇよなぁ」
「あぁ!なるほど、それで皆んな、僕を見て驚いていたのか。」
チッ!
舌打ちをして僕の胸ぐらを掴んだ。
「何無視してんだよ。」
「離してくれ、君が僕に何を望んでいるのか知らないけれど僕は君に何もしないし、何も思わない。」
退いてくれ
と僕は彼の手を払い除けて歩き始めた。
「お前、誰だよ、本当に俺たちが虐めてたやつなのかよ。」
彼は驚きと絶望が入り混じったような顔をしていて
それと同時に彼が何故、僕にこんなに突っかかってくるのか
多分わかってしまった。
いや正直9月2日のあの日から分かっていた。
何故僕に仕返しをさせたいのか。!
彼は本当に、
強くて弱い人だ。
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