一雫の青は、透明な水に滲んで広がる

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______________________________ 9月10日火曜日 2日目の朝。 前の日から準備されている朝食を温め直し、 着替える。 ボロボロになっていた教科書は 断捨離、したから 鞄の中身は空っぽだった。 母は必ず夕食と朝食を作ってくれる。 お金をくれれば、それでなんとかするよと言った時に、 これは母としてのプライドだよって言われてどつかれてしまった。 僕の父は僕が中3だった時に 車に轢かれそうな女の子を助けて死んだ。 もちろん凄く哀しかったけど、誇らしく思え、 憧れを抱いた。 父の性格はのんびりしていて、僕や母に敬語を使う、優しい性格の人だった。 母は反対に男勝りで何かとぶっきらぼうで口が悪い。 なぜこの二人が結婚したのか僕の中で未だに謎だ。 だけど母は 「絶対にお前はあんな男になるな、 自分の命より他人の命を大切にする奴なんて旦那になる権利も父親になる権利もなかったんだよ。 大切な人を残していくようなやつに憧れたりなんか絶対にするな!」 葬儀中、大声で放ったその言葉に 親族みんな驚いて母を見つめていたが、 母は僕から目を離すことなく 忘れるなと、その強い眼差しが、 初めて見る母の涙に 母の言葉に その場にいた皆、父が死んでしまったことへの実感が溢れ上がり 誰一人として父のようになるなと言う言葉を放った母を非難する人はいなかった。 ______________________________ 今日も今日とて 鬱陶しいほどの快晴に アスファルトの反射熱が。 上を向いても眩しく下を向いても熱い もうどこを向いて歩いていいのかも分からない 今の自分の状態とまるで一緒で、少し笑える。 校門を越えようとした時、腕を掴まれ 驚いて顔を上げた。 「おい、少し話がある。こっちに来い」 静かに怒りを噛みしめた表情の写真部顧問の先生だった。 どうやら思ったより予想通りに、ことが進んだようだ。 「昨日あの後、あの子に何を言ったんだ。 放課後泣きながら私に、カメラを渡して行ったぞ! このカメラがあの子にとって、どれだけ大事なものなのか、」 「あ!先生そこにあんまり興味ないので、彼女がどんな思いで写真撮ってたとか、そのカメラがどれだけ大切なものとか、どうでもいいです。」 先生は冷たい人間だとでも言いたげな目で押し黙って僕を見ていた。 「多分ですが。自分の意思で諦めることができず人にカメラを託して逃げたんですよ。 本当に諦めてしまいたいのなら、辞めようと思うのなら、自分の手で壊すなり捨てるなりすれば良いのに。 未練たらしく捨てられず、責任を人におしつけた。」 「そんな言い方は無いんじゃないのか?、お前には分からないだろうが、彼女の才能は、思いは、そんな簡単に諦められるものではないんだよ。」 まただ この指先から冷えきる、この感覚。 怒りを通り越した、この感覚は、 血の気が引くと言う状態なのだろうか? 「先生が僕の『親友』が自殺したことを"こんなこと"って言えてしまえるくらいに! 僕には、どうでもいいことですね。」 「ち、違う!あれは咄嗟に、あの子を説得するために……」 あまりにも狼狽るので、なんだか可哀想に思える。 一呼吸置いて 鼻でゆっくり息を吸って 体に酸素を回せ、熱を回せ、 落ち着け、落ち着け 「先生、すみません八つ当たりしてしまいました。 まぁ今言ったことに嘘偽りは一つもないですが、 大丈夫ですよ。 僕の目的は彼女にカメラを辞めさせないことです。」 写真部顧問は胸に手を当て 深呼吸した。 「私もすまなかった。あの時の軽率な言葉は決して本心ではない。本当に申し訳ない。 辞めさせないとはどう言うことだ? なぜ君がそんなことをする?」 「僕にとって彼女の才能や思いなんて、本当にどうでもいい、けれど、 頼まれたからですよ。『親友』に、頼まれた、ただ、それだけです。」
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