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端末の表面に表示されるアイコンを操作すると映像が流れ始める。映像の中では、いわゆるテレビタレントと呼ばれる人が何人か並んでいて、各々がどれだけ健康的であるのかを数値で比較している。番組の情報をラテ欄から確認すると健康バラエティというカテゴリが与えられていた。
番組の中で、何人かのタレントの中で最も健康的な女性の、様々な数値が開示されていく。実年齢九四歳、体年齢は二五歳と、年齢だけ見れば別段珍しくもない、戦後第二世代に見られる一般的な数字。しかし、それ以外の数値が軒並み優良とされる数値を上回っていた。血中コレステロールだとか血糖値だとか内臓脂肪だとか。医療的な処置など不必要に、病気にほとんどかからないだろうと、出演していた医者がコメントをする。このままの健康を維持し続ければ、事故や未曾有のウィルスでもなければ、少なくとも未来永劫生きられるだろうと。
その女性タレントは別の男性タレントから「吸血鬼ですからね、この人」とツッコミを入れられる。どうやら、その女性タレントのキャラクターを前提としたものらしく、俺にはわからなかったが共演者にはウケていた。するとその女性タレントも、
「いやーん、健康すぎて困っちゃう」
完全なる健康体であることの自尊心からの自虐、という諧謔。ふと、計磨が言っていたことを思い出した。
「それが何であれ、過剰なものっていうのはそれだけで面白いんだよ」
つまりこれも健康すぎて面白い、ということなのだろうか。そうであれば、不健康すぎて面白いという番組の面白さもあるのだろうか。俺が知らないだけで、あるのかもしれない。
けれど、少なくともテレビ番組としては使えないだろう。不健康という概念が「死」を否応なく想起させてしまう以上、不謹慎だとか破廉恥だとか言われて視聴者からクレームを入れられてしまうはずだから。
「……だめだこれ」
その番組は、暇つぶしに垂れ流すには劃諷にとって許容できない下品さだった。端末を操作してチャンネルを変えてみると、「深夜に生テレビ」という名前の討論番組がやっていた。どうやら過去の再放送らしかった。
劃諷はその番組に珍しいものが映っていることに興味を惹かれて操作する指を止めた。珍しいもの――――何人もの討論者の中に混じって『老人』の男性が混じっていた。番組としてもその『老人』が要だと考えているのか、カメラがフォーカスする時間がほかの討論者に比べて長かった、「NPO法人 有限会 代表 砂金哲也」というテロップと七六歳であることがその『老人』が画面に出るたび示される。ほかの登壇者の肩書はほとんどが学者や評論家とつくものばかりだった。経済学者や社会学者など。中にはナチュラリストという肩書で登壇している者もいた。
どうやら番組が始まってからだいぶ経過し、すでに終わりに差し掛かっているようで、途中から見始めた劃諷はどのような話の流れだったのか細かい部分を推量しなければならなかった。大まかなテーマ自体は画面の右上にテロップで「今こそ考える! Primalifismと差別、永遠と有限の対立を超えて」と、それらしいものが常に表示されていたおかげでついていくことはできた。
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