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少し、当時の話をする。
俺と彼女は、高校の天文学部に所属していた。
先輩が二人、後輩はゼロ。俺と彼女は同学年だったが、別クラスでそんな馴染みがあったわけでもない。
廃部寸前、人は入らず、常に少人数だったこの部活は、先輩たちの卒業に伴って特に大きな活動も出来ずに幕を閉じることとなる。
それでも部活は部活だった。俺と彼女の数少ない接点だったのは確かだし、純粋な宇宙への興味から集っていた四人は、すごく仲が良かったと今でも思う。そして俺は当然ながらに彼女に恋をした。
一年が経ち、二個上の先輩が卒業すると、活動を維持できなくなり廃部。
俺が行動に移したのは、廃部となってからしばらく経った高二の夏。八月のペルセウス座流星群が見られる時期。彼女との関係性が薄れ出し、みんなとの青春だった天体観測が一人の趣味へと変貌してしまった当時。
高校二年の夏休みに、俺は彼女を、デートに誘ったのだ。
流星群を二人で見よう、と。
「いいよ」
――当時、俺は彼女に、その快諾を二度使われた事がある。
デートに誘ったその時と、
流星群の降り注ぐ夜。
その場で告白した時だ。
◆ ◆ ◆
それでも、今となっては過去の話だった。
関係は三年くらい続いたが、結局はそこまで。喧嘩別れなどでもないが、友達に落ち着いたわけでもなく、お互いの連絡先こそ知っているけれど連絡は取らない状態。
吹っ切れた。とは思っていた。
――目の前。幸いにもすぐに目覚めた少女は、俺の部屋を興味深げにぐるりと見渡している。
この彼女が誰なのかなんて正直なところわからない。全くの無関係だったりもするだろう。
それでも、事情は聞きたいと思った。
……とは言えだ。
見知らぬ部屋で、様子を伺う男。赤の他人であるならば、これ以上怖い事もないだろうから。
慎重にコミュニケーションを図ろうとする俺とは打って変わり、意外にも少女は、やがて俺の存在に気づくと。
「………」
ふっ、とやさしく笑っていた。
「――っ」
今日買ってきたビールには手付かずだ。何かおかしなものを食べた覚えもない。いくら疲労の蓄積があったとは言え、元カノが空から落ちてくるなんて、馬鹿げてる。ふざけてる。
人間か、また違うものか、あるいは夢や幻の類かなんて、今の俺には目の前の存在を推し量ることはできないが。
不思議と、不気味になんて思う気持ちはなく、むしろこれは、――そう。
未練なのだろうか。
「……俺を、知っているか?」
少女は無口だった。聞いても何も答えないが、しかとと言うわけではなく、喋れないと言ったような、そんな違和感がある。そこは快活な元カノと唯一違うといえていた。
「お前は、どこからきたんだ?」
自分が何者なのかを少女は理解していないのか知らないが、俺の質問には小首を傾げるばかりだった。上の空というべきか、それがどこか余計に目の前の存在を霊的に思う。
率直に、薄い。と思った。
「宇宙から、きたのか?」
答えない。
「何かを、教えにきてくれたのか?」
――答えない。
「これは、全部、夢なのか……?」
――答えては、くれない。
しばらく、沈黙が続いていた。
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