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後日。
空から落ちてきたはずの少女は、案の定というべきか、次の朝にはもう忽然と姿を消していた。
今となっては本当に見たのかどうかすら定かじゃないし、夢だった。と思うのが今は一番いいと腑に落ち着かせている。
だが、これも別のジブリ映画から借りれば、夢だけど夢で終わったわけじゃない。
「夏の夜っつっても、冷えるのに。そんな薄着で平気?」
「うんうん。何回見にきてると思ってるのー? さいあく今年はまた君がいるんだし」
都心からだいぶ離れ、地元の毎年来ていたスポットにまで。山奥の駐車場に車を止め、三脚とカメラを取り出し、セッティング。
車の荷台に積んであるキャンプ用の折り畳み椅子を組み立てて、星を眺める準備をする。
「人生って不思議だね」
「……ん?」
「ううん。実は君が電話くれた日、ちょっと面白い経験してたりして」
「……へえ」
まあ、でも、空から降ってくる男子高校生なんてのは、さすがにないだろう。
少し、もしかしたら彼女も俺と似たような経験をしたのかなんて思ったが、たぶんない。
……まさか。
「流れ星見つけたら、今回はなにをお願いするんだ?」
「そうだなあー、君が煙草をやめますように!」
「えぇ」
「やっぱ健康考えた方がいいんじゃない? これは純粋に、彼女としての気遣いですよ」
「おお」
「あ……違う、今はまだ今は彼女じゃなくなってるんだった!」
「いや、さすがにこの前の飯の時、もっかい流星群見ようって誘ったんだから、薄々勘付いてくれてるだろうなとは思ってたし」
「そこはなんかムードないと思うなー」
「いらないだろ。誰か見てるわけじゃないんだから」
「んふふ、まあね」
スマホで確認する現在時刻。それがちょうど、ピークと予想されていた時期になる。
「あっ、いまひとつ流れたよ」
「これからどんどん流れていくぞ」
「ね、うわあああ、すごいきれい」
星降る夜だ。そして、彼女と二人きり。
あの当時の再現に、これ以上素敵な星空の今日はない。
「俺と、もう一度、付き合ってくれませんか」
「もちろん。いいよ」
あの頃より、カッコよく決めれてる自信はない。多少なりと、少しだけ弱気で、なさけない感じは我ながら思っていたりもする。
でも。
「今日の星空は、さいっこうだね!」
星空の美しさは、あの日の空よりもより鮮明に。美しく。
かけがえのないものとなってくれていた。
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