流星雨の中で

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*  計画を実行に移すのは早かった。翌朝、心地よい鳥の囀りで目を覚まし、昨日用意したものを片手に飛び出した。人目など気にせず、右手に携えた真白な封筒を揺らしながらとある場所へと向かう。  クリーム色の壁に、青い屋根。よく手入れされた庭。洋風な家の前に来ると、俺は一番西側の窓を覗く。そこでは、ちょうど着替えを終えたであろう少女が、姿見の前で欠伸をしていた。彼女が纏っているのは、学校指定のセーラー服。今日はちゃんと学校に行くのだろうかと心なしか安堵しながら、俺はポストにその封筒を突っ込んだ。  今日の夜七時、街はずれの丘に来て。風間春樹。  たったそれだけを書いた便箋が、秘密の白の中には込められている。紺色のポストはそれを飲み込むと、カタンと完食の合図をあげた。  流星雨の伝説を実行するためには、まず相手を呼び出さなければならない。俺と彼女は知り合いだから、おそらく俺の名前を見れば丘に来てくれるだろう。彼女も年頃の女の子だから流星雨の伝説は知っているだろうし、それなりに興味もあるだろうから、これだけ書かれていれば嫌でも目的は理解してくれるだろう。最終的に来るかどうかは、彼女の判断だけれど。  もしも来てくれたのなら、俺はあの街はずれの丘で告白をする。大量の星が降り注ぐ中で、空虚な告白のセリフを言ってやろうと思う。  彼女のことは別に好きではない。だが、嫌いなわけでもなかった。むしろ彼女に対して好意的だし、彼女の優しくて誠実な人柄は尊敬している。  ただ、恋愛感情がないだけだ。少なくとも、俺には。  どことなく冷めてきた心でポストをぼんやりと見つめていれば、玄関の扉が開く音がする。出てきたのは彼女だった。ぴょこんと寝ぐせをひとつ立てて、目を擦りながらこちらに歩いてくる。俺は慌ててその場から離れ、宛てもなく歩き出した。  約束の時間までは、まだ半日以上ある。  何気ない日常を謳歌して、全てが終わるのを待つとしよう。
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