流星雨の中で

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「でも、私ね、たぶん星空なんてどうでも良かったの。行事だって、どれだけ楽しい出来事だって、青春の付属品にしか見えなかったから。それでも楽しかったのは……思い出として記憶に残っているのは、きっと、春樹くんがいたからだね」  白い息を吐いて彼女は徐に立ち上がる。寒いくせに冬でも手袋をしない彼女の手は赤く、熟れた果実みたいだった。かじかんだ手をすり合わせた後、服についた雨をはらう。そうして俺に向き直ると、彼女は泣きそうに微笑んだ。 「もう一度、春樹くんと思い出を作ることができてよかった」 「……鈴宮さん」  優しげな瞳の奥には、小さな覚悟が宿っていた。 「まさか、俺の目的に気づいてた?」 「……なんとなくね。春樹くんの存在はなんとなく感じていたから、いつかはこうなるだろうって思ってた」  申し訳なさそうに俯いて、彼女は言った。  彼女は、もうとっくに覚悟を決めていたのか。俺が無理やり彼女との縁を切ろうと仕組んでいたのに、彼女の方が一枚上だったか。いや、本当は俺もこんなことをしたくなくて回り道をしていただけなのかもしれない。俺の中に鈴宮さんに対する恋愛感情はなくても、友人としての愛はあった。異性で一番仲が良かった。だから、傷ついてほしくなかった。  でも、それでは彼女のためにも俺のためにもならない。どちらも不安定に縛り付けられたままでは、ただ苦しいだけだ。 「私が割り切れないせいで、春樹くんはさまようことになっちゃったんだよね? ……本当に、ごめんね」 「……いや、別に。俺の方こそ、辛い思いしかさせられなくてごめん」 「ううん、謝らないで。春樹くんは悪くない、誰も悪くないの。……誰も悪くないから、この気持ちをどこにぶつけていいか分からずに、春樹くんをただ思い続けることしかできなかった」  胸の前で両手を握り、鈴宮さんが掠れた声で紡ぐ。勢いを増し始めた流星雨が傘を捨てた彼女に容赦なく降り注ぎ、光の欠片を落としていく。降ってきた星の雨は、無情にも彼女の体を冷やしていくだろう。 「……ここは、願いを叶えてくれる場所。だから、私たちの思いはきっと叶うよ」  深呼吸をして、鈴宮さんが不器用に笑う。 「一回叶えば、それで満足すると思うの。……私みたいな女の子は、きっとそうだから」 「……」  俺が計画していたことの全てが、彼女に筒抜けみたいだった。考えることは同じだった。前を向くために、この半透明の恋を終わらせるために、流星雨の伝説を利用した。  恋を叶えるためじゃない。  恋を終わらせるために、星に願いを。
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