流星雨の中で

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「……春樹くんの優しさを利用してごめんね。好きでもない子に告白なんて――」 「好きだよ」  星が落ちた。明るくて、透明で、まるで涙のような。 「鈴宮さんが好きだ。だから、俺と付き合ってほしい」  ここは二人だけの舞台。流れ星が降り注ぐ煌びやかな世界。そんな舞台の中心で、一度も目を逸らすことなく。  流星雨の中で、たった十秒の恋を。  おかしいな。空虚な思いだったはずなのに。こんなにも胸の辺りが熱くて、切ないのは何でだろうな。 「…………ありがと」  震えた声が、地面に溜まる星屑に落ちた。彼女の頬に流れた星は、白い吐息と混ざって神秘的なこの空間に溶かされていく。俺達に当てられたスポットライトは、もう消えかかっていた。 「……ごめんなさい」  それは、縁を断ち切る言葉。  あまりにも傷ついた顔で、それでいて晴れやかな顔で、鈴宮さんはその魔法の言葉を口にした。  ぷつり、と俺と彼女の間で何かが切れる音がする。その瞬間に、どことなく重みを感じていた体が軽くなり、どこかへと引っ張られていくような感覚がする。  ふと手元を見てみれば、流星雨を透かす掌が夜闇に溶け始めていることに気が付いた。指先から、小さな光の粒子となっていく。それを視認した時、俺はようやく眠れるのだと実感した。 「ありがとう、鈴宮さん。どうか、元気で」 「……うん。春樹くんも、ね」  ごしごしと目元を擦りながら、彼女は無理やり笑みを押し出した。映した星々を零すその瞳には、はっきりとこの幻想的な世界が映し出されている。その中にはもう、俺はいない。  それがなんとなく寂しい気がしながら、俺は目を伏せる。一歩後ずさり、微睡み始めた意識の中で生前の思い出を振り返る。そうしていれば、きっとあっという間だ。あの世への旅路なんて、きっと短い。 「……春樹くん!」  眠る直前、彼女が大声で俺を呼ぶ。薄く目を開けば、涙をこらえて顔をくしゃくしゃにした彼女が、消えゆく俺を見つめていた。 「大好きだったよ……!」  響いたその言葉が、別れの言葉だった。それなのに温かくて、目の奥が熱い。俺はきっと、誰よりも幸せ者だった。  何も言い返さずに、笑って目を閉じる。  流星雨の中で笑う彼女は、何よりも綺麗だった。どうか、彼女に明るい未来がありますように。そして、願わくば素敵な人と結ばれますように。  降り注ぐ幾千の希望に向けて、俺は祈る。
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