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俺は、迷わず冷蔵庫を開けた。
理由は、風呂上がりに、無性に炭酸が飲みたくなったからである。加えて今日は金曜日の夜。ビールを飲むための条件がすべて揃っていた。
先日行われた健康診断では、糖尿病とコレステロールの数値が引っかかり、個別に呼び出しを食らってしまった。よりにもよって、自分より一回り体の大きな保健師のおばちゃんから、みっちり1時間の健康指導を受けた。
"間食は控えましょう"
"寝る2時間前には何も食べないように"
どの腹して言ってんだと、ツッコミたくなる気持ちを抑えつつ、俺は最後までおばちゃん保健師の言葉に耳を傾けた。特に飲酒に関連する数値が上がっているらしく、節酒を心掛けるよう、何度も何度も念を押された。
"プシュッ"
だが、それがなんだ。
風呂上がりだぜ? 金曜日の夜だぜ?
飲まないという選択肢があろうか、いやない。俺は右手を腰に当て、左手の中にあるそいつを一気に傾けた。
"グビグビグビ……"
缶の中身が喉を通過し、胃袋に流れ込んでいく。誰が何と言おうと、サラリーマンに、この一杯は欠かせないのだ。
「っくぅー!」
こうして、350mlのキンキンに冷えた液体は、俺の体内へと消えていった。俺は、非常に満たされた気持ちになりながら、ゆっくりと息を吐き出した。
しかし……
「あれ?」
飲み切ったのも束の間。すぐにあることに気付いた。
「これ、ビールじゃない……」
なんということだろうか。独特の苦味も、喉越しも、全くやって来ない。それどころか、無味で炭酸でもないので、何を飲んだのかすら分からなかった。
空になった缶カラを恐る恐る確認すると、そこには太字のゴシック体で、『あと5分』と書かれていた。
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