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すりすりと少しだけ力を込めて擦られると、なぜか全身がむずむずしてくる。確かに寒いときなど、思わぬタイミングで陥没している乳首が飛び出すことはあるけれど、でもこんな風に誰かの手でというのは初めてだ。それになんだか今の状況はすごく、不道徳というかいやらしいというか、とにかくまずい。
「榎木、本当にこれ、だめ……ん、あっ」
抵抗する言葉に奇妙な吐息が混ざるのはなぜだろう。やがて榎木がそこを撫でる動きを止めたので、おそるおそる俺も胸元に目をやる。
普段は淡い褐色をしているそこが、薄いピンク色に染まり、心なしか少しぷっくりとしている。それだけでも妙に隠微なのに、榎木は人差し指と中指を使って、乳輪の中心をうっすらと横切る亀裂を左右に押し開いた。
「うわ、やらしい……」
押し開かれた場所の奥ですでに硬く膨れているそれを見て、榎木は息をのんだ。そして奴がおもむろに指先に力を入れると、それはかすかに揺れて、ぷくりと飛び出してくる。
「ちーちゃん、すっげえピンクで、震えてる」
「や、やめろよそういう言い方」
「ごめん。半井先生。先生の乳首、ピンクでぷるぷるしててすっげえやらしい」
今言いたいのはそういうことじゃない。けどあまりの恥ずかしさにそれ以上言い返すことはできなくなる。教え子に押し倒されて、長い間誰にも見せたことのない陥没乳首をいじられて、露出させられて、いやらしい言葉でなぶられて。頭が混乱して何も考えられなくなる。
それ以上に――。
「はあっ……あっ。やだ」
ふう、とひとつ熱い吐息を吹きかけられ、全身を震えが走る。熱く硬く勃起した乳首が敏感になっていて、榎木の息ひとつにも反応してしまうのだ。
「すげえな。包茎と一緒で、普段隠れてると刺激に敏感なんだな」
「んっ。だめだって、やっ」
ピンと指先で弾かれて、さすがに自分の体を走り抜けるのが性的な快感だということには気づく。ただのコンプレックスの根源だった乳首が、こんな風に扱われて、こんな感覚をもたらしてくるなんて想像もしなかった。でも。
「ああっ、嘘。何やって……」
チュッとそこに口づけられ、続いて生暖かく濡れた感覚が胸の先端を包む。榎木は赤ん坊が乳を吸うように、セックスのときに男が女の胸を吸うように、俺の平坦な胸の先に吸い付いていた。敏感な乳首を舌先でくすぐり、いじり、唇を尖らせちゅっと吸い上げる。普段は小さく縮こまっているそれがどんどん腫れて大きくなっていくようで、それはそれで怖い。怖いのに気持ちよくて、胸の上で揺れる榎木の頭を引き剥がさなければいけないとわかっているのに、できない。
「んんっ」
やがて、左胸に顔を埋めたまま榎木は手を俺の右胸に伸ばし、まだ埋まったままの右の乳首を掘り起こしにかかる。片方だけでも過剰だった刺激が倍になり、俺はもはや恥も外聞もなく榎木の頭をかき抱いて、熱い息とはしたない声をこぼすだけだった。
「先生、ここ触って」
まともな思考ができなくなった状態で、榎木の手を振り払うという判断はできない。導かれるまま手を伸ばし、触れたのは熱くて硬くてぬるりとして、ところどころ筋張っている何か。包み込むように握らされたところでそれは激しく動きはじめる。
「あ、先生。ちーちゃん、すげ、気持ちいい」
あれ、この手触りには覚えがあるぞ。こんなに太くも大きくもないけれど、俺も男だから、似たようなものを下半身に持っていて、数日に一度はそれをこんな風に握って、上下にしごいて。
「榎木、おまえ何やってんだよ……」
約束は、願いをひとつ叶えることだった、榎木は「乳首が見たい」と言って、決して納得したわけではないけれど、俺は結局それに応じることになって、それで終わるはずだったのに。なのにいつの間にか。
榎木は変態だ。
年上の男の陥没した乳首に興奮して、そこを触ったり舐めたりして下半身を硬くしている。でも、だったら、その変態に触られて舐められて喘いでいる俺は。その性器を言われるがままに握ってやっている俺は。
「ちょっと、黙ってて」
榎木の表情に残る子どもっぽさは、今ではあざとさとしか感じられない。本性を隠そうともせず、俺の左胸から口を離すと、奴は真上から俺の顔をのぞきこむ。そして拒む隙も与えてくれないままに赤い舌を出してちらりと俺の唇を舐めた。驚いて何か言おうとしたら、今度こそ噛みつくように唇を塞がれ、舌を絡め取られてしまう。
そして、あとはもう――。
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