* 西に、光明あり *

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* 西に、光明あり *

***  女子校時代、一番の優等生だったマミ。  頭も良ければ、気立てもよい。  おまけに弛まぬ努力も忘れない辛抱強さも持っている。  そんなマミが最も結婚から遠ざかる未来など、誰が想像できただろう。 「ありがちと言えば、ありがちなのかな。本当に、ハッと気付いたの。彼との未来はないって」  そう言って彼との別れを語る彼女・マミの声は実に穏やかだった。  マミの彼氏に、目に見えた欠点はなさそうだった。それは私たち他人からも、そしてマミの目からも……。  とはいえ、適齢期の女性との未来について、真剣に向き合うことを放棄した事実をクローズアップしてみれば、誠実さや優しさは持っているとは言い難い人物と言えるだろう。  なにはともあれ辛抱強くて我慢強いマミが見切りを付けたのだ。  ずっと頑なに彼を信じて、彼の気持ちが固まるその瞬間まで寄り添う慈愛に満ちたマミの気持ちが枯渇したのだ。それは女子校時代の旧友たちにとって、本当に衝撃的な出来事だった。 「でも、良かった……。マミが、元気そうで……」  本当は、マミがあんな最低な男と別れて良かったと言いたかった。  だけど、何年もマミが寄り添い、気持ちを待ち続ける価値があると判断してもらえた相手でもある。だからこそ、一方的な否定は出来なかった。それはマミの生き様を否定することに繋がる可能性があるのだから。 「ふふふ。やあね、そんなに神経質にならなくても大丈夫だから」  そんな私たちの気持ちを察するように、マミはクスリと柔らかな笑みを浮かべて、面白い話を持ちかけてくる。 「それもこれも、西の夜空にたくさん降っていたお星様のおかげなんだけどね」 「? どういうこと?」  確かにマミは学校帰りの薄暗い中の一番星を良く眺めていた。  そんなマミにとって、星々が癒しの存在になったと聞いたとして、物凄く納得がいく。  ……と思ったら、どうやら理由は違うらしい。 「丁度、一人でいる時だったの。西に星が降ってきたのは」 「ん? え? 別に殊更、変なことないよね?」 「ふふふ。そうよね、状況的にはね」  クスクスと笑みを浮かべるマミに、尚も解せない表情を浮かべる私。マミはこそっと手帳を取り出し、言葉を復唱していく。 「丁度、一人でいる時だったの」  そう言って、一本の線を手帳に引く。そして……。 「【西】に」  【西】という字を書き加えて、マミは【酉】という字を完成させる。 「【星】が降ってきたのは」  そして、【酉】という字の隣に【星】という字を書き加える。まるで【一】人で眺める【西】の夜空に【星】が降り落ちてきたかのように……。 「え……。嘘でしょ」 「本当よ。ひとりで、西の夜空に星が降り続ける様子を見て、ハッキリ【醒】めたのよ。彼との未来も、なにもかもね」 「……」 「だから、私は平気。冷静に客観視した瞬間、終わった醒めた恋だから」 「マミ……」  無理やりな別れは、心を引きずってしまう。  だから、私は幸せだとマミは笑う。 「流れ星を見ながら、漢字が浮かぶほどには冷静に気付けたからね。恋の終わりを」 【Fin.】
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