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CASE6
西の死から3日後、関口は立浪に呼び止められた。
「倉木さんが左遷されるなんて…そんなことがあっていいんですか!?」と立浪は関口を問い詰めた。関口は答える事無くその場を去ろうとする。
「答えてください!」と尚も関口の行く手を塞ぐ様に立つ。それを見て関口はようやく口を開いた。
「さっき警務部の連中から報告があった。近いうちに飛ばされるってな」
「そんな…」
「理由についてははぐらかされた。ただ、警務部の穂積って奴は西を支持していた人間だ。何か裏があってもおかしくはねぇな」
関口はその場を去ろうとする。しばらくして「お前も身の振り方考えていた方が良いかもな」と振り向いて言い残し、去って行った。
その頃、江利賀は春影と共に澪が眠る病室にいた。
「俺がいながら失態を犯してしまいすみませんでした」と言い頭を下げた。
「…」
「俺はリーダー失格です。皆の前にいる資格はありません」
「…私も所長失格だ。皆が反感買うと知りながら安錚に手を貸してしまった」
2人の間に沈黙が流れる。しばらくして江利賀が口を開いた。
「その後、澪さんは…」
「急性ストレス障害を発症した。当面の間は職務に復帰できないだろう」
「そうですか…」
江利賀は視線を落とした。そして振り向いて「汐谷さんに疑ってすみませんでしたと伝えてください」と言い残し病室を去って行った。
嘉元は一人、肩を落として警視庁の廊下を歩いている。そこに立浪とすれ違った。嘉元は目線を逸らし逃げようとする。すると立浪は嘉元の肩を掴んだ。
「…どうして逃げるんですか」
「べ、別に何も無いっす」
「貴方は西にハメられた。無論、この僕たちも例外じゃない。やられたままで悔しくないんですか!」と突然胸倉を掴んだ。
「悔しいですよ!僕のせいで澪さんは二度と立ち直れないほどの心の傷を負ってしまった。自分はもうここにいる資格なんて無いっすよ…」と嘉元は脱力気味に言い返した。
「嘘つくのが下手なんですね。本当は警察続けたい。顔にそうやって書いてありますよ」
「…」
立浪は嘉元を掴んでいた手を乱暴に放す。そしてこう告げた。
「本当に続けたいんだったら、亜嵐君達に謝ってください」
立浪はその場を去っていった。嘉元は項垂れている。
イレーズ探偵事務所で各自が作業していた。小南は黙々とこなしているがどこか心ここにあらずの状態で、翠も手が止まっている。清張はキーボードを打っているが溜息ばかりついている。振戸は席で腕組みしながら座っていた。その時、扉が開き汐谷がやって来て、Eネットワークのシステムを作動させた。
「私たちは後ろを向いている暇などありません。これからも皆様と共にやっていくのみです」
「そんな事言ったって、亜嵐が来なくなってからも3日経つんですよ」と小南が返す。
「わかりました。ですが、こちらをご覧ください」と言い、汐谷はモニターを操作した。そこには8人の人物画像が表示されている。
「これらはEネットワークがこの3日で検出した人物です。彼らは全て西誠と接点がある人物です」
「何が言いたいんですか…?」と翠が汐谷に尋ねる。
「この中の誰かが何も罪のない人間を傷つけるかもしれない。その時に頼れるのは貴方達しかいません」
事務所に暫しの間沈黙が流れる。それを破ったのは清張だった。
「やるしかないよね…?」
「亜嵐はいないんだぞ。こんな分裂に等しい状態で僕たちに出来ることは限られている」と振戸が声を張り上げるが、清張は構わず「アイツの事だ。何か裏でコソコソやってんじゃない?」と楽天的だった。
「なんでそんな呑気なの。さっぱり意味が分からないわ」と翠が溜息をつきながら言うが、「すぐ帰ってくるでしょ」と言った。それほど信頼しているのだろう。
それを見た小南は「ある意味、レイちゃんの言う通りだ。亜嵐を探った所で何も出て来やしないさ。だったら俺たちでやるしかない」と強い覚悟を決めて言った。
その言葉に汐谷は微笑み、こう確信した。
――彼らのチームワークは、そう簡単には崩れない。
関口は『新宿無差別通り魔事件』の慰霊碑にやって来ていた。ただ一人目を閉じて手を合わせている。するとそこに江利賀がやって来た。
「なんでここに来る人はワケありな人ばっかりなんですかねぇ」
「冷やかしに来たのか…?」
関口は怪訝な様子を浮かべる。すると江利賀は口を開いた。
「深町さんから聞きましたよ。8年前のこの事件、6人の犠牲者の中にただ一人警察関係者がいた」
「…」
「その一人は貴方のバディだった、奥居渉」
聞きたくない言葉を聞いたか、関口は顔を顰めた。
「思い出しくないがその通りだ。平井のドラ息子にあいつは殺された」
「いつもエタンドルでモンブランを食べているのも――」
「あいつの大好物だった。今でも奥居の事を忘れることはない」
関口は視線を下に落とす。すると不意に口を開いた。
「…この前は、済まなかった。疑って悪かったな」
「謝ってくれているのなら、それはどうもありがとうございます」
江利賀は嫌味に聞こえないように返した。そして関口は続ける。
「それともう一つ、倉木が閑職に左遷させられるそうだ。おそらく西の力が働いているのは間違いない」
「そんな事が…?」
「何かが絡んでいる。早くしないとあいつの警察として築き上げた全てを失うぞ」
江利賀は強い眼差しで慰霊碑を見つめていた。
嘉元はただ一人、事務所を訪れていた。「すみませんでした!」と手を付き、大きな声で謝罪する。
「別に嘉元さんの責任じゃないですよ」と翠が宥めるも、「いいえ、責任は僕にもあるっす!」と言い返した。
「西さんが悪事に手を染めているのを知っていながら、僕は止めることが出来なかった。それだけでも警察官としての資格はないっす」
「そんな大げさな…」と振戸が諫めるように言うが、「亜嵐君にも申し訳ない事をしたっす」と出るのは反省の言葉だけであった。
その時、小南が「謝るのはそこまでにして、顔を上げてください」と声をかけた。
「そんなに申し訳なく思っているんだったら、今回のケース協力して貰えますか」
「そんな事したら、関口さんに怒られるっす。口ではああいう厳しい事言いますけど、内心は皆さんの事が心配なんですよ」
「どういう事なんですか?」と清張が尋ねる。
「あの人は『新宿無差別通り魔事件』で部下を亡くした。それ以降、人を失う事に敏感になっているっす」
関口の過去に皆が皆、言葉を失う。
「亜嵐君が関わっていた事件にあの人も絡んでいたって…」と汐谷も思案顔になる。するとその時、Eネットワークが作動した。嘉元はその音に思わずビクッとなる。
「ビックリしました?このシステムは常に誰かを検出してるんですよ」と清張はおどけて見せる。そしてパソコンを操作しモニターに表示させた。
「今回のターゲットは有限会社の「珠の会」会長である樋川秀嗣」
「なんか如何にも祈祷師って感じ。お化けでも憑りついてんじゃないの?」と翠。
「考えられるのは悪徳商法の一つである霊感商法っていう手口か…?」と小南が呟けば、「その手法であくどく儲けてんのかもな」と振戸も同意する。
霊感商法とは、人の悩みなどにつけ込み相手の不安を利用して高額な商品を買わせる手口の事である。ここ何年かは被害が急増している。
「最近、消費者契約法の改正で規制は強化されています」と汐谷が嘉元に視線を向ける。嘉元も「その通りっす」と頷いた。
「こいつは一体、誰を騙そうとしているんだろうねぇ…」
一方、澪は病室で目を覚ました。しかし顔は青く、肩で大きく息をしている。
「澪!」
春影が声をかける。その声でようやく澪は我に返った。
「お父さん…」
「心配したぞ。お前がこのままずっと目を覚まさないかもしれないとな」
春影も安堵から大きく息をする。しばらくして澪は顔をあげた。
「これからどうするつもりだ」
「…」
「まぁ、今はゆっくり休め。お前は一人じゃない」
春影はそれだけ言って、病室から出て行った。
珠の会では既にセミナーが行われていた。振戸と小南はそのセミナーに参加している。
「怪しいと思う点は一つも見当たらない」
「ああ、確かによく偽装されているな。これは確かに騙されてもおかしくない」
事務所に残っていた翠と清張も調査を続けていた。翠はチラシを熱心に見ている。するとある文字に目を留めた。
『このチラシの20分1500円っていう金額。なんかきな臭いわね』
『こうやって入りやすいように設定して、誰かをカモにしているって事だ』と清張も同意し頷いた。
しばらくしてそのセミナーは終わった。小南は汐谷に「8人の中に当てはまりそうな人間は見当たりますか」と指示を出す。それを受けて汐谷はモニターに表示させるが『今のところは見当たりません』と答える。
「深く探ってみる必要があるな」と振戸も呟いた。
安錚愛理は慶明小学校の前を歩いていた。その目の前に江利賀が行く手を塞ぐ様に現れる。
「アンタには山ほど聞きたいことがあるんだよなぁ」
「…何の用よ」
すかさず一枚の紙を見せつけた。その途端、安錚の表情が変わった。
「アンタを許す気は毛頭ない。父親の事に関してもな。だが、春影さんがわざわざチャンスをくれたんだ。これを無下にしたらタダじゃ済まさないからな」と言いUSBメモリを取り出し、安錚に差し出す。
「私にどうしろって言うのよ」
「来栖芽亜里に関するデータを盗み出せ。平井太郎の秘書を務めていたアンタだったらそのくらい楽勝だろ」
「簡単に言わないでよね。まぁ、琴音の為よ」と言いUSBメモリを受け取った。
2人はそれぞれすれ違いながら去って行った。
事務所には関口がやって来ていた。
「嘉元から聞いたぞ。珠の会に関して調べてるんだってな」
「はい。今回調査しているのはその会長です」と言い、人物画像をモニターに表示させる。
「それで何か実態は掴めたのか」
「今のところは特にありません」と振戸が返す。
「騙されていることに気づいていない。それに気づかなければ被害は大きくなるのは明確だ」と言い、関口は帰ろうとするが入り口の前に汐谷がブロックするように立った。
「どけ」
「いいえ。あなたが話してくれるまでどきませんよ。この宝石を買ってくれるまではね」と言い、宝石を見せつける。
「その宝石、いったい何処で買ってきたんですか」と翠がツッコむが「訳アリなので」と微笑み返した。
「まぁ、今のような感じだ。悪徳商法によく使われる手段としてはな。不退去罪でワッパをかける事は出来る」
「関口さんが今仰ったように、家から出ていくように命じられたのにも関わらず退去しなかった場合はこのように罪は成立します」と汐谷。
「こうやって他人の家に来るのはおそらく末端の人間だよね。樋川からしてみればそういう奴は駒扱いでしょ」と翠。
「だろうな。ピラミッドの頂点にいる樋川はそうやって身代わりを用意してんのかもな」と小南も頷く。
「かなり闇が深いよ。この組織は」と言い清張はさらに「これがとある入信者の金額支出」と言いモニターに表示させた。そのグラフはかなり右肩上がりだ。
「すげぇな。このグラフ」と関口は驚いているようだ。
「ここでのお金は全て樋川が全て持って行ってるな。あの様子じゃ部下に金は行き渡っていない」と振戸。
「かなり緻密に策を練っているって事か」
一方、江利賀の方も珠の会に関して独自に調べていた。エタンドルにてプリンを食べながら深町に状況を説明する。
「中々洒落たカルト集団じゃない」と深町はおちょくるが、「好きで潜入している訳じゃない」と江利賀は遮った。
「気にしてるの?目の前で自殺した人を見たのを」と深町は問う。「当然」と素っ気なく答える。
「全くあの時と同じだ。思わずあの時の痛みがぶり返す」と言い胸に手を当てる。深町は「大丈夫なの?」と心配そうに言う。「もう俺はあの時とは違う」と言い返した。
「それを聞いて安心したわ。今の貴方なら強大な悪に立ち向かえる」
「深町さん。珠の会に関して深く探れますか」
「了解」
翌日、小南は翠と共に樋川の自宅にピッキングで潜入した。次々に隠しカメラを設置していく。さらに調査を進め、机の引き出しを空けた。そこには2枚の紙があった。小南はそれらを手に取りしばらく眺める。すると何かに気づいたのか「なるほどねぇ…」と呟いた。
「どうしたの?」
「この人物、何か見覚えないか?」
小南が見せた書類に載っていたのは「穂積孝行」であった。
「あの8人の中の内の一人じゃ…」と翠は思い出したかのように言う。
「確かこの穂積ってあの中で唯一警察関係者だな。何か怪しい…」と小南も思案に暮れる。すると『怪しいと思っていたのは僕も同じ』と清張の声が通信機越しに聞こえた。振戸も『チビに同じく』と答える。
『調べてみたんだよ。入信者の金をピンハネしていたのは樋川じゃない。穂積だ』
『中間搾取して穂積が樋川に協力していたんだろう。証拠を確実に消すために』
清張と振戸がそれぞれ声をあげる。するとその時、関口が事務所に立浪を連れて入ってきた。
「どうだ。状況の方は」
「重大すぎる情報ゲットしちゃいました」と清張はニヤリと笑みを浮かべ一枚のデータをモニターに表示する。
「おいおい…どうなってんだよこれ」と関口は困惑気味だ。立浪はハッとする。
「まさかこの人が…?」と何か思い出したようだ。
「西の残党がここにいたとはな。おい小僧。西との繋がりを探れるか」と清張に指示を送る。清張はパソコンを動かす手を早め、僅か30秒足らずで手に入れた情報をモニターに表示させた。
関口はその速さに呆気に取られている。それを見て立浪は「甘く見たらいけないですよ」と横槍を入れる。
「樋川から西、そして穂積へと金は行き渡っていたみたいですね」と清張。「汚い手口を使いやがって…」と関口は怒りに震えている。
「穂積は倉木を閑職に追いやるつもりだ。早めに証拠を突き付ける必要がある」
その頃、江利賀は宮城県にいた。バッグには500万円の大金を手にしている。するとスマホが鳴った。電話の主は深町からである。
『ちょっと、バカンスしすぎじゃない?』
「春影所長の許可を得て長期休暇中ですから何ら問題はないですけどね。それより珠の会に関して調べました?」
『関わっているのは警察関連の人だった。名前は穂積孝行。警務部の人間よ』
「そいつの実家の住所はわかりますか?」
深町は住所を伝えた。江利賀もすかさずメモを取る。
「ありがとうございます。キップ代は後で深町さんに清算させておくんで」
『春影さんに頼みなさいよ。じゃあ、後は宜しく』
そこで電話は切れた。江利賀は大きく息を吐く。そしてニヤリと笑みを浮かべて「バカな人間どもだ。騙されていると知った後の反応が楽しみ」と呟く。
織江九宏は最高裁判所長官室にて安錚と共にいた。
「聞いているかな?最近私の可愛い娘を嗅ぎまわっている奴らがいるとか」
「それはどういうことでしょうか」
「探偵だよ。奴らは違法な手口さえ辞さないんだ。そんな奴に私の娘を傷つけられたく無いね」
「私はどうすればよろしいでしょうか」
「嗅ぎまわるハイエナを全て叩き潰せ。法を踏み越えても構わん。私がもみ消すだけなのだからな」
安錚はそそくさとその場を去っていった。そしてスマホを取り出して電話をかける。
一方、宮城から東京に戻ってきていた江利賀は穂積の実家を訪ねていた。江利賀はスーツ姿に眼鏡をかけて変装している。チャイムを鳴らすと高齢の女性ととぼしき人が現れた。その女性は江利賀を招き入れる。
「この家には霊が憑りついています」
「ええ…?」
「そんな貴方にはこちらの商品をお勧めします」
そう言って江利賀が見せたのは高価な壺とお札である。それをその女性の前に見せつけるかのように置く。
「貴方はラッキーですね。私が今ここに来ていなければ、大変なことになっていたのですから。金額は諸々含めて100万円になりましょうかと」
高齢の女性は席を離れる。その隙をついて机の下に盗聴器を仕掛ける。暫くして高齢の女性が戻ってきた。手には札束を手にしている。
「では、こちらを」
「確かに受け取りました。では私はこれで失礼します」
そう言った後、江利賀は家から出て行った。外から出た後、江利賀はバッグの中に入っている札束を見る。
「二度騙されるのは騙される方が悪いってな。首を洗って待っているがいいさ」
そう呟きながら住宅街を歩いて行った。
安錚は汐谷と共にエタンドルにて会っていた。
「どうだった?」
「あのクソじじい隙が無い。こっちが足元掬われる気がするわ」
安錚はそう言いながらコーヒーを口にする。
「でもハッキリしたわ。来栖芽亜里はまだ生きている」
「え…?」
「顔を見たくもないような探偵に頼まれたのは不本意だけど、来栖芽亜里に関する情報は盗んできたわ」
安錚はそこに何枚あるかわからない紙を机に出した。汐谷はその紙をおずおずと受け取る。しばらく見ていたが不意に顔を上げる。
「これって、まさか…?」
「かつて彼女が関わっていたされる『関東連続不審死事件』、いわゆる『警察庁広域重要指定125号』のデータよ。この事件は打ち切られたと聞いたわ」
警察庁広域重要指定とは、同一犯とみられる事件が複数の都道府県で発生した場合に警察庁が指定している事件である。
「じゃあ、この事件が公にならなかったのは…」
「織江九宏の存在。それ以外有り得ない」
そう言いながら安錚は再びコーヒーを口にして大きな息を吐く。しばらくして汐谷が口を開いた。
「ねぇ、無理してない?」
「何が?私は全然平気よ。貴方の頼みだから引き受けたのよ」と言い一枚の名刺を見せた。その名刺は偽造された名前である。
「私は法喪失者。法の保護なんて二度と受けられない人間。それでも困っている人間を守ることは出来る」
「…」
「琴音。貴方は素晴らしい仲間達に出会えたわね」
その言葉を聞いて汐谷は微笑んだ。つられて安錚も笑みを浮かべる。
その頃、4人は事務所にて作戦を練っていた。関口もその輪に加わっている。
「穂積が関わっていることは間違いない。ただ決定的な証拠は奴を問いただしても出ない」と関口。
「しっぽ切りみたいな感じだ。組織のトップはスタッフの前に姿を見せていない。責任を全て末端の奴に被せるのが奴らの狙い」と振戸。翠も「ホントいかれた連中」と呆れたように言う。
するとその時「ビンゴ」と清張が大きな声を出した。一同の目線が集中する。
そこには、樋川がメールを打っている画面が表示されていた。それを見て皆が険しい表情になる。
「穂積はこの事件の幕引きを図るつもりだ。そして澪さんにその責任を押し付けて失脚させる為に」と小南。
するとパソコンを操作していた清張は何かに気づいたのか「何やってんだ…?アイツは?」と声をあげる。そこに映っていたのはなんと江利賀だった。防犯カメラの映像は珠の会の拠点を映している。
「何のつもりだ…?」と関口が訝しげな様子になる。
その映っている映像には江利賀が樋川と話している。
「まさかアイツ、樋川とグルになって…!」と関口がいきり立つが、「いや、違う」と振戸が制した。
「は…?」
「アイツは何か探ろうとしている。そのくらい俺たちはわかるんですよ」
「そしてもう一点、穂積の居場所が掴めました」と清張はパソコンの画面を変える。
「とにかくこれ以上は待てない。穂積に手錠をかけて洗いざらい喋ってもらうしかない」
関口はそれだけ言い残し事務所を出て行った。
その江利賀はネットカフェに潜伏していた。
「そろそろ仕上げかなぁ…?」
プリンを食べながら何やら含みがあるような笑みを浮かべていた。
その夜、警務部の部屋では穂積が職務に当たっていた。澪に関する書類を眺めて卑しい顔を浮かべている。するとその時、関口がドアを蹴りとばし入ってきた。
「何なんですか、一体。ああ貴方は関口さんでしたねぇ。こんな所に一体何の用でしょう」
「テメェの猿芝居に付き合っている暇は無いんだよ、大根役者。用件はお前を逮捕する事、それ以外に何があるんだ」
「知りませんねぇ。証拠はあるんですか?」
関口はスマホを取り出して電話をかけた。相手は立浪である。
「どうだ。そっちの取り調べは」
『樋川が全面的に自供しました』
関口は同じことを穂積に告げた。穂積は「バカな…!?」と狼狽えている。そして関口を突き飛ばし逃げ出そうとする。そこに嘉元が出入口を塞ぐ様に立ちはだかった。
「おい、そこをどけ!」
尚も嘉元は穂積の行く手を塞ぐ。関口は穂積のシャツの襟足を掴み、壁に向かって投げ飛ばした。
「俺はアイツのやり方を気に入っている訳じゃない」と言い大きく息を吐く。そして「だが、警察組織を腐らせる奴はもっと嫌いだ」と続け、2枚の写真を穂積に向かって投げつけた。その写真は穂積と樋川が会っている写真である。それを見て穂積は驚愕する。
「何故それを…」
もはや退路を断たれた穂積はその場にへたり込んだ。関口は更に詰め寄る。
「お前に手錠をかける前に、仕事を果たしてもらうからな」
「どんな仕事だ…?」
「倉木を元のポジションに戻せ。そしてその上でお前が倉木が就く予定のポジションにお前が異動しろ。それが出来たら見逃してやってもいい」
「そんな無茶苦茶な――」と穂積が言いかけたのを関口は顔面にパンチして遮った。
「お前の意見は1ミリも聞いてねぇ。人事部だったらそのくらい余裕だろうが。もしやらなかったら懲戒免職にしてやるからな。わかったか」
関口は穂積にそう吐き捨て、嘉元と共に去っていった。
廊下をしばらく歩いていた嘉元は関口に「なんで樋川までたどり着いたんですか」と尋ねる。
「探偵達のおかげだ。今頃芋づる式に幹部は逮捕されている」
3時間前――
小南と翠は共に珠の会の本拠地に到着していた。小南はピッキングツールを取り出し鍵を開けようとする。すると突如ドアが開いた。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」
2人の前に立っていたのはなんと江利賀だった。2人は呆気にとられている。
「遅ぇよ。お前ら」
「ていうかなんでここにいんのよ」と翠は膨れっ面をして尋ねるが、江利賀は気にする素振りを見せず小さい袋を見せた。
「これ青酸カリじゃない?」と翠は驚きを隠せない。小南も「なんでそれを持ってるんだ…?」と疑念を抱く。
「何でかはわからなかった。だけどこれを見て確信したんだよ」と言い、1枚の紙を見せた。
「借用書…?まさか…」
「闇金だよ。青酸カリでもやって自殺して借金から逃れようという魂胆だろう。深町さんにも調べてもらった。樋川が購入した形跡はない」
「どういう事?」
「青酸カリを購入したのは穂積だ。彼のダークウェブのアカウントから購入履歴が見つかったんだよ」
江利賀はその購入した履歴が記されている紙を見せた。
「とにかくその証拠を突き付ける」
2日後、立浪が穂積の目の前に立った。立浪は逮捕状を穂積の目の前に突き付ける。
「貴方を逮捕します」
それだけ言って立浪は穂積の両手に手錠をかけた。穂積は突然の事に呆然としている。立浪のすぐ後ろには関口が立っている。
「お前…!騙したのか!?」
「そんな事、俺が知るか。俺は見逃してやると確かに言った。だが立浪は黙っちゃいないだろう。ましてや相棒の危機とあればな。そんな事より倉木を元のポジションに戻したんだろうな」と関口は詰め寄った。
「言われた通りにした…!早くこの手錠を外せ!騙しやがって汚いぞ!」
すると突如穂積の後ろから声が聞こえた。
「その言葉そっくりお返ししてやるよ」
穂積が振り向いた先には江利賀が立っていた。
「お前こそ何の罪も無い人間を騙しておいて、噴飯物だよ。みっともなくて笑っちまうぜ。あ、連行される前にもっと良い事教えてやるよ」
江利賀は穂積の耳元で何かを囁いた。その言葉を聞いた途端、穂積の顔が紅潮していった。
「貴様――」
その叫び声は江利賀が股間を蹴ったことで鎮静された。
「澪さんからの伝言だ。俺の大事な仲間を傷つけた罪は重い」
立浪は痛みに悶えている穂積を連行していった。
事務所に江利賀が帰ってきた。ドアを開けた刹那、小南のパンチが江利賀の顔面を目掛けて繰り出される。江利賀は瞬発的にその拳を手で受け止める。
「全く、ほっつき歩きやがって、俺たちがどれだけ心配したと思ってんだ」
「このお代はいちごパフェで払ってもらうからね」
小南と翠の文句を「はいはい」と聞き流し、江利賀は自分の席に座る。
「まぁとにかく旅行のお土産」と言い、お土産を机の上に広げた。
「てか宮城県で何やってたんだよ。スマホのGPSもハッキング出来なかったし」と清張も溜息交じりに言う。
「樋川の実家に行ってきたんだよ」とドヤ顔で言う。振戸は「詐欺師を騙し返す『クロサギ』って奴か」と尋ねる。江利賀は「大正解。まぁターゲットにしたのはその家族だけど」と返す。
「今頃、どんな顔してんだろうなぁ」と江利賀は笑い飛ばしながら言う。それを見た小南は「心底悪い奴だな」と呆れたように呟いた。
一方、警視庁では澪が虚ろな顔をして廊下を歩いていた。何やら退職届を手に持っている。すると突如その腕を何者かによってひねり上げられた。
「立浪…!何のつもりだ…?」
「貴方が警察を辞めるなんて相棒であるこの僕が許さない…!」
立浪は真っ直ぐ澪の目を見据えていた。
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