夕顔

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 飼われているものなのか野良なのかは定かでない様相に相応するような類いの大型の犬の遠くまで響きわたる声だったけれども。  遠くで生後間もない児が泣き叫ぶ声が響いていた。  家族観としての人間が住まう民家のうちに在ることは誰しも容易に判別がつく事象であろうとも。  朝陽の昇る以前に不意を搗かれかのように鳴く喧(かまびす)しい小鳥の鳴き交わす騒ぎの。  しかし外気においてはこの時期にしては大凡珍しいことに満遍なく小雪が降りしきっていたのだった。  親を呼びながらも泣き叫ぶ赤子の声音は風に吹かれては方向性としては風下へと流れてゆく。  満遍となく地面に落ちては外気と地上を冷却しながらも。 積もるまでにはいたらない細(ささや)かな雪の結晶におけるきらめきにかんしては六角形を帯びていたのだが直ぐに溶ける薄さだった。  陽光から温(ぬく)められつつある地表に触れては溶解するまでの時間がそう掛からることはない。  薄氷(うすらい)を形成しうる水の清らかさにかんしては。
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