泣ける女

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泣ける女

 世の中は涙で満ちあふれているらしい。 『切ないラストに涙が止まらない!』 『世界中で感動の涙!』 『きっとあなたも号泣する!』  少し街を歩いたり、書店を覗いたりすると見かける宣伝の数々。世の中には切なくて泣けるものがたくさんあるようだ。その多くは映画や本、漫画や動画などだが、私はそういったものを見たり、読んだりしても泣いたことはない。 「良い物語」「素敵なお話」  とは思う。でもそれだけだ。  泣けると評判の映画を元カレと一緒に観に行って、彼は涙を堪えるのに必死だったのに、私は泣かなった。 「感動しなかったの?」 「感動してるよ」 「でも泣いてない」 「泣かないと、感動した証しにならないの?」 「いや、そうじゃないけどさ。こう感動を分かち合うっていうかさ。なんか、つまんないオンナだな、瞳子(とうこ)って」  あふれる涙をハンカチで押さえながら、弱々しく泣く女と付き合いなかったのだろう。  思えば、いくつかあった卒業式でも私は泣いたことはない。お世話になった恩師との別れでも同じ。  友人たちは、ボロ泣きだったのに。  私だって別れは辛いし、切なくなる。でも泣けない。  泣いてる彼女たちを支えてあげなければ、恩師の前で泣いて心配させたくない。などと考えてる私に涙の出番はない。  人前で泣ける女は、それだけできっと、ひとつの才能なんじゃないかと思う。  私もそんな女になれなら、少しは可愛げのある女になれるのだろうか?
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