22人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
出会い
通勤帰りの駅の構内で、ひとつの広告に目を留めた。
人であふれる駅の構内の一角に飾られた、美しい星空のポスター。
『満天の星空をあなたも見てみませんか?』
山への旅を誘う広告だった。
旅行がしたかったわけではない。でも星空には心惹かれた。
「きれい……」
無意識に、ぽつりと呟いた時だった。
「星、お好きですか? 柊さん」
聞いた覚えのある声。驚いて振り返ると、取引先の営業の人だった。名前はたしか……。
「星村さん、でしたよね?」
「わぁ、僕の名前、覚えててくれたんですか? 嬉しいな。そうです、星村 貴史です」
人懐っこい笑顔を浮かべた星村さんは、女性社員に隠れた人気がある。なんでも某アイドルに顔が似てるとか。男女関係なく笑顔で応対する彼は、私にとって仕事先の人にすぎなかった。
「僕も星好きなんですよ。名前が『星村』だからじゃないですよ? 星を見てると心が洗われる気がするんです。柊さんもそうですか?」
少しあどけない顔なのに、妙にスーツが似合っている。屈託のない笑顔を浮かべ、嬉しそうに星の話をする。
なんだか、昔飼ってた柴犬みたい──。
和犬特有の丸まった尻尾が彼の後ろにあって、私と仲良くなりたいと、ぶんぶん振り回している。
失礼にも、そう感じてしまったからだろうか? その後私と星村さんは、たまに会って食事をするようになった。
最初のコメントを投稿しよう!