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誘い
「もし良かったら、僕と一緒に星を観に行きませんか?」
何度目かの食事で、星村さんに誘われた。
行きたい、すごく行きたい。でも……。
「あの、星村さん。ひょっとして私と付き合いたい、って思ってます? だったら私は……」
星村さんは盛大にむせ込み、飲んでたビールが口元からこぼれ落ちた。慌てて彼に、新しいおしぼりを手渡す。
「ちょ、直球ですねぇ、柊さん」
「ごめんなさい。あなたと話すのが楽しくて、なんとなく話を避けてたんですけど、これ以上はお付き合いできません」
星村さんが私に好意を抱いているのは、最初からわかっていた。そうだと知りながら、彼と会ったのは純粋に楽しかったから。大好きだった愛犬に再会したような感覚に、懐かしさと親しみを感じてしまった。
けれどそんな行為が、星村さんに期待させてしまったのかもしれない。なら、申し訳ないことをした。だって私はもう、男と付き合いたくないのだから。
「なんで、ダメなんですか?」
ふと顔を上げると、星村さんの真剣な眼差しがあった。人懐っこい笑顔は消え失せ、男らしさを感じさせる表情にドキリとした。
「私、可愛げがない女なんです。ありがたいことに男性からお誘いはいただくんですけど、いつも『可愛くない』って理由でふられるんです。だからもう、そういうのはコリゴリで……」
早くなる胸の鼓動を抑えながら、努めて冷静に説明をする。
「私、泣けない女なんです。人前でも彼氏の前でも泣いたことがなくて。だからこんな私と付き合ってもつまんないですよ」
我ながら面白みの無い話だと思う。事実なのだから仕方ない。
「わかりました。そういうことなら、無理強いしたくない。でも最後に一度だけ、星を観に行きませんか? それで終わりにしましょう」
最後に一度だけ、一緒に星を。
星村さんの言葉に、なぜか私は静かに頷いてしまった。
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