満天の星空

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満天の星空

 「柊さん、着きました」  星村さんの車で2時間ほど行った先に、目的の場所はあった。夕方の待ち合わせだったから、山間の田舎町はとっぷりと日が暮れていた。 「足元に気を付けて外に出てくださいね」  ゆっくり車から降りると、そこはもう別世界だった。 「わぁ……」  星が落ちてきそうなほどの、満天の星空。漆黒(しっこく)の闇の中で、幾千もの星が輝いている。少し歩くだけで、星の海の中を漂っているようだった。 「すごい、なんてキレイなの……」 「でしょう? これをあなたに見せたかったんです」 「星村さん、ありがとう。この星空を見れただけで、これからもひとりで頑張っていけそうです」  星村さんは少し切なげな微笑みを浮かべた。彼には申し訳ないけれど、これで終わりにできそうだ。 「柊さん、ちょっと待っててもらえます? 今日はいいもの持ってきたんです」  星村さんは車に戻ると、トランクからクーラーボックスとキャンプ用ミニテーブル、イスを運び出してきた。 「良かった、いい具合に冷えてる」  ミニテーブルに置かれたのは、シャンパンのボトルと透明のシャンパングラスだった。 「僕ね、好きな人と星空の下でシャンパンを飲むのが夢だったんです。最後に付き合ってもらえませんか?」 『好きな人』という言葉に胸が締め付けられながらも、細長いグラスに注がれていくシャンパンの香りと泡が弾けていく様子に目を奪われる。 「柊さん、どうぞ」  手渡されたグラスをそっと受けとる。満天の星空に向けてシャンパンのグラスを掲げると、輝く星たちが弾ける泡と共にグラスに閉じ込められていくようで、夢のように美しい光景だった。  
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