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プロローグ
鋭い雨が、ぬかるんだ地面に突き刺さる。
鼓膜を乱暴に叩く雨音が、俺の嗚咽を隠してくれた。
「貴志、愛してる」
車道から外れた暗い林の中。
濡れ鼠二匹が冷たい体温を分かち合っていた。
「本当の、本当に……誰よりも、愛していたよ」
離れていく唇を追うことも出来ず、俺はその場に頽(くずお)れる。
優しすぎるほどに優しい掌が、俺の頭をそっと撫でた。
「幸せを、祈っているから」
これが最後のキスだと、信じた。
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