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 玲司の言葉にうなずき、私達は窓際に椅子を引いてきて、お互いの缶ドリンクで乾杯。昔の思い出話をたくさんたくさんした。未来の事は何も話さなかった。話せば、絶対に叶わない夢だという事を思い知って、泣きたくなるだけだから。 「そろそろだね」  部屋の時計は、『アペルピスィア』が地球に衝突する予想時間に近くなっている。空を見上げれば、普通の星とも、ましてや月とも違う、大きな輝きが、夜空にまぶしく輝いている。 「ねえ」  もう流れる涙は無い。にっこり笑って玲司に手を伸ばす。 「手を、握ってて」  玲司は不意を突かれたのか、少し驚き顔をしたけれど、すぐににっこりと笑って。 「いいよ」  それまで缶コーラを握っていて少し冷えた温度が、私の手に触れた。  玲司と手を繋ぐなんて、小学生以来だ。あの頃は、隣り合って並ばないと手が届かなくて。こうして家同士が向かい合っていても、窓越しには手を繋げなくて。ふざけ半分に手を伸ばしてきゃらきゃら笑っては、親に見つかって、危ないことを、とこっぴどく叱られた。  でも、今は届く。あの時、私より小さかった彼の手は、すっかり大きく逞しくなって、年頃の男の子なんだなあ、というのを感じる。 「最後に一緒にいられたのが姉ちゃんで、オレ、幸せだなあ」  うん、私もだよ。  その言葉が玲司の耳に届いたか、私はたしかめられなかった。  空が朝焼けのようにオレンジ色に染まり、大気圏突入で赤く燃える小惑星が、ついに最期の時を告げようとしていたから。  生まれ変わったら、ちゃんと玲司と付き合いたいな。  その願いを最後に、私の意識は光の中に溶けた。
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