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「驚くのも無理はございません」
呆気に取られる私と玲司を前に、少女がはちみつ色のまつげを伏せがちにして、ゆるゆると首を横に振る。
「ここは絶望の大地『アペルピスィア』。神子様がたは、この地を救う救世主として招かれました」
地球に降ってきた小惑星と同じ名前に、玲司と同時に息を呑む。夢物語なんじゃないかって、頬をつねってみたら、痛い。
「この大地では、『群青』、『紅蓮』、『翡翠』、『白鷺』、四つの国家勢力が、長き間、覇権を巡って争っております。ですが、群青の国は他国に圧されて滅亡寸前。群青の巫女であるわたくしは、ひとりこの神殿に逃れ、わたくしたちの救い主である群青の神子様を召喚いたしました」
私達の戸惑いなんてなんのその。少女は熱を帯びた瞳で、ずいっと迫ってくる。
「神子様がた、どうか群青を、そしてアペルピスィアをお救いください」
いやちょっと待って。お救いくださいって。私達はさっきまで、ただの大学生と高校生だったんですけど。戦い方なんて知らないんですけど。それに、『アペルピスィア』が降ってきて、人類滅亡したはずなのに、ここはどこ? 私は誰? ってなってしまう。
「そんな勝手な……」
玲司も同じ戸惑いを感じたんだろう。少しいらだち気味に口を開きかけた時。
ばあん! と。
扉が派手に蹴破られる音がしたので、そちらを振り向く。少女が怯えた様子で、私の腕の中に収まってきた。
石造りの神殿の、そこだけは木製の扉が破壊されている。そこに立ってとんとんと剣で肩を叩いている、紅蓮の服をまとった男が、私を見て、目をまん丸くし、すっとんきょうな声をあげた。
「……蒼海?」
見間違えるはずがない、その憎たらしいだらしない顔。
数時間前、私を振った、元彼氏!
「お前、こんな負け確定の国に呼ばれたのかよ」
明らかに馬鹿にした態で、奴は笑う。
「おい、楽勝だぜ! 皆でやっちまえ!!」
奴が号令を下すと、わらわらと、剣や槍を手にした男女が、神殿に入り込んできた。総勢、六人。
どうしよう。ハツカネズミがまた、私の脳内をぐるぐる巡る。
戦い方なんて知らない。人を殺すなんて、私の生きてきた世界では考えもしなかったことだ。
だけど。
この腕の中で震えている少女の怯え方は嘘じゃなさそうだ。ひとりで逃げてきたと言った。『群青』の国は、本当に負け寸前なんだろう。
何より。
あの男、ぶっ飛ばしたい。
その思いが、私を突き動かした。
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