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「下がってて」  巫女だという少女を背後に押しやり、腰の剣の柄に手をやる。すらり、鞘から引き抜けば、青みを帯びた刃がきらりと輝く。 「姉ちゃん一人にいい格好させないぜ」  その声に視線を向ければ、やはり青く輝く槍を構えた玲司が、隣に並んでいる。 「姉ちゃんは、オレが守るからな!」  その言葉に、頬が、胸が、熱くなる。玲司は私を裏切らない。ずっと私を想っててくれる。その嬉しさが力になる。 「私も、玲司のことは私が守るよ」  剣を正眼に構え、不適に笑う。 「一緒にいこう!」  二人一緒に床を蹴る。雄叫びをあげて、向かってくる『紅蓮』の連中に突っ込んでいって、剣を一閃。肉を断つ音――ではなく。  ぽこん。  なんとも間抜けなポップ音と同時、『紅蓮』の男が目を見開いたかと思うと、手品みたいに弾け、無数の漫画じみた星になる。その星は、さも当然のように私に吸い込まれた。  その途端、頭がクリアになる。どう剣を振るえばいいか。どういう足さばきをすればいいか。まるでゲームのチュートリアルのように、情報が流れ込んでくる。  今度は高くジャンプ。槍を持つ女の脳天に剣を叩きつけると、やはり星に変わって、私の中に吸い込まれる。今度は、敵の動きが緩慢に見えるようになった。  なんだこれ。本当にゲームのレベルアップみたいだ。  横目で見れば、玲司も槍を振るい、あっという間に三人を星に変えて吸収している。さすが若者は物覚えが早いですね。二歳しか違わないけど。 「ち、ち、ちくしょう!」  元彼が焦りで顔をゆがめて、剣を振り上げて突っ込んでくる。 「おそ」「遅い」  振った仕返しとばかりに剣を振るおうとした私との間に、玲司が割り込む。突き出した槍は剣を弾き飛ばし、武器を無くして唖然とする奴の首に吸い込まれて。  ぽこぽこぽこんっ!  ひときわたくさんの星をまき散らし、玲司に吸い込まれて、消えた。  床には一滴の血も流れていない。星が飛び散った痕もない。ひとつ息をつきながら武器をしまうと。 「神子様!!」  呼び声と共に、駆ける音が近づく。振り向くと同時に胸に飛び込まれ、「うおっふ」と息の詰まった声が思わず洩れた。 「ありがとうございます、早速『紅蓮』の手の者を倒してしまわれるとは! さすが、わたくしが見込んだ神子様がたですわ!」  巫女の少女は、心底嬉しそうに、きらっきらの瞳で私を見上げる。 「ええっと」  情報を整理しなくてはいけない。私は少女を見下ろして、疑問を投げかけた。 「敵を倒すと星になる。その星を集めて強くなる。そういうことでいいのかな?」 「はい!」  少女は興奮さめやらぬ様子でしっかりとうなずく。 「『降る星』の力を持つ神子同士が戦い、星を最も多く集めた神子の属する勢力が、アペルピスィアの覇者となる。それが『星の誓約』です」  玲司と顔を見合わせる。どうやら私達は、この戦いを生き残るしかないらしい。地球に戻れるのかはわからないけれど、今は、向かってくる敵を倒すばかりだ。  私達自身が、星屑になって消えないためにも。 「わかった。オレ達は、『群青』の国のために戦うよ」  玲司が神妙な顔でうなずく。私も一緒に首を縦に振る。  たちまち巫女の顔がぱああっとさらなる喜色に輝き、「ありがとうございます!」と、私の胸に深々と顔をうずめる。  もう終わりだと思った命だ。どうにかこうにか、役に立ってみせよう。  私と玲司は、もう一度顔を見合わせて、苦笑を交わした。
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